今回はアトリエラポルトで筆職人の方に特注して作って頂いた筆を紹介します。
古典絵画の人物の肌などの滑らかなモデリングは魅力的な上に神秘的なものです。
そこでいろいろな地塗りを試みたり、溶剤の配合を考えたり、筆触や絵具の盛り上がりをファンでぼかしたりと工夫されている方も多いと思います。
この度アトリエラポルトで作った筆は、そのような効果を得るために使われていた筆の一種です。昔の技法書や画材カタログには載っているのですが、現在日本では作られていない筆を再現したものです。
右の絵はダヴィッド(Jacques-Louis David 1748-1825)作の「レカミエ夫人」の部分ですが、未完成のため背景や腕などに筆触が残っています。それを見ると筆を押し付けたような点状のタッチなのが分かります。
これは今の一般的な毛先がまとまる筆では出し難いタッチです。
これが特注して作って頂いた筆ですが、逆に毛先がぼさぼさで垂直に立てて押すと開くようになってます。「引いて描く」のではなく「押して描く」「叩くように描く」筆なのです。
この筆を使い「押すように、叩くように」絵具を置いていくと、下地にしっかりと絵具が着く上に、塗り重ねながら滑らかなモデリングやぼかしの効果を得ることができます。その結果、抵抗感のあるしっかりしたマチエールと美しい発色が可能になります。
右は、明治時代の初期(10年頃)に作られた日本で最初の洋画材カタログの一部です。(絵具問屋村田宗清:2012年2月15日のブログ参照)
興味深い事にここに「打筆」という名前で同様の目的の筆が載っています。(多分イギリスからの輸入品だったのではないかと思います。)
今回作るにあたって参考にしたのはフランスのマネ社の筆です。昔と同じように軸受がひもで作られています。
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試作品1 |
余談ですが、この筆が完成するまで約1年。試作を繰り返し職人さんが匙を投げかける寸前で出来上がりました。
試作品1:
見た目は良いが、押しても思うように毛が開かない。
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試作品2 |
試作品2:
広がりやすくと思い先端を平らにしたら、かえって開かなくなってしまった。
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試作品3 |
試作品3:
毛が偏らずに広がるようにと毛足を短くしたが効果なし。
結局油絵の歴史が浅く、過去に作ったり使ったりした経験がない物を作るのがいかに大変かが分かりました。
*現在この筆はアトリエラポルトの1階のさとうストアで販売中です。
10号:1,263円,12号:1,474円,16号:1,895円,(税込み)
3種類のみで、数に限りがありますので売り切れの際はご容赦下さい。