2020年9月15日火曜日

フェルメールのカメラ箱

 今回紹介するのは、文具メーカーのコクヨから学童向けの教材として発売された「フェルメールのカメラ箱」です。

いわゆるカメラオブスクラのペーパークラフトキットで、非常にシンプルな作りですが、その原理を体感することができます。





20㎝位の大きさのケースを開けると、このような厚紙でできた材料とレンズと鏡が出てきます。


説明書に従って組み立てると下の写真のようになります。





A.Kircher, Ars Magna Lucis et umbrae. 1649より

フェルメールと同時代の文献に載っている挿絵と同じような物が出来上がりました。














実際に覗いてみると、このように見えます。


近距離の室内や静物ではボケが気になりますが、遠い風景だと印象派の絵のような感じに見えます。
(ただし左右が逆転して映ります。)






このようなレンズを使った光学器具は、良質なガラスレンズが比較的に安く大量に生産される16世紀頃から発達します。


ディドロとダランベールが編纂(1751~1772)した百科全書にも、レンズと鏡を使った絵を描くための装置が載ってます。



ただフェルメールの時代のカメラ・オブスクラは、被写体深度が浅くレンズの歪みも大きいので、画家がこれを使って絵を描いたかは疑問です。

今回この「フェルメールのカメラ箱」を作ってみて、やはりフェルメールは従来からの線遠近法を基にして描いた上での、見え方(光や陰影など)の補助として使った程度ではなかったかと思いました。


*カメラ・オブスクラの歴史について詳しく知りたい方には、次の本がお勧めです。

 「カメラ・オブスクラ年代記」ジョン・H・ハモンド著 川島昭夫訳 朝日選書



2020年9月4日金曜日

実物を見て描く

 今回は、モチーフを見て描く技術を学ばれているOさんの静物画を紹介します。


Oさんがそれまで学ばれていた絵画教室では、写真から絵を描く指導を受けていたそうです。アトリエラポルトで、改めて絵画の遠近法に基づいたモチーフを見ながら描くデッサンから始められて1年半が過ぎました。

紹介する静物画は、色を使った油絵の2作目になります。





 事前に地塗りをして平滑な下地を作ったキャンバスにデッサンを転写して、バーントアンバーとシルバーホワイトで明暗をつけていきます。この段階で絵全体の明暗(明度)関係や配置を大まかに決めてしまいます。また、着彩時に絵具の発色を良くするために、明部は実際の明度より明るめにしています。



     
背景から明度と距離に順じた彩度で固有色をおいていきます。写真に撮れば固定された色として現れますが、肉眼で見ると視線の移動や周囲の影響を受けて明度や色相が微妙に変化して見えます。それを捉えることが絵の豊かさや実感を生み出します。




背景からテーブルクロスと描き進み、いよいよモチーフの彩色に移ります。
明部から暗部への移行部分の明度と色の変化を、よく観察して再現するようにアドバイスしました。






コロナ禍で長い休みを挟んでの制作になり、ようやくここまでたどり着いた感じがします。
丁寧に描き込まれた、中間色のニュアンスの美しい絵に仕上がりました。
できれば、ポットの実際の色はもう少し明度の低い空色なので、それが加わればより自然な遠近感と色彩感のある絵になると思います。



教室のモチーフには限りがあるので、今後静物画を魅力的な作品にしていくには、自分の好きなモチーフや形を探していかれると良いでしょう。