2013年6月27日木曜日

アトリエの道具と画材 : 金槌

前回キャンバス張り器を紹介しましたが、今回はそれと一緒になくてはならない金槌です。


この金槌もフランス製で、かなりの“スグレモノ”です。
















長さ30cm、幅12,5cmで、取っ手を中心にシンメトリーなデザインは、美しいだけではなく、実用上の理由があります。














片方が、釘を打つ面で、直径1cmの細身です。















もう片方は、磁石になっていて、手を使わず、直接釘を取ることができます。













釘をくっつける
金槌をたたく側に返して、
打ち込む
キャンバスに軽く打ちつける


ついでに、釘(タックス)について。

写真は、左から2本が、日本製で真鍮と一般的に使われているタックス、次の2本が、フランス製で、銅と鉄のタックスです。

ここで注目していただきたいのが、長さの違いではなくて、その形状です。



フランス製のタックスは、芯が正方形に面取りされている上に、付け根の所から四方に山が作られています。このことにより、キャンバスを点ではなく面でしっかりと木枠に押さえつけ、強い張力をかけても破れ難くしています。
1mmにも満たない僅かなところですが、伝統から生まれた知恵を感じさせます。


2013年6月19日水曜日

女性美を描く

女性の美しさは、昔から絵を描く強い動機となったものです。
Mさん(6/7のMさんとは別の方です)も、若々しい女性の美しさをテーマにしたいとのご希望で、今回は個人的にモデルさんをお願いして、女性像に挑みました。



女性像を描く時は、どうしても顔に関心がいってしまいますが、良い作品にするには、構図とポーズが重要な要素になります。今回は、モデルさんに時間がなかったので、とりあえず様々なポーズを写真に撮って、その中からキャンバスの形に合わせて再構成しました。


デッサンができたら、バーントアンバーとシルバーホワイトで、明暗をつけていきました。













白いシャツに対して、黒い髪の毛と、本の影と、椅子の暗い領域をどのように配置するかが、構図の重要なポイントです。



















色をつけていきます。
色の混乱を防ぐために、三原色をベースに現実の色の再現を試みます。使用した絵具は、イエローオーカー、レッドオーカー、コバルトブルーです。これに、必要に応じて、彩度の高い色や褐色系の絵具を加えていきました。

















形が曖昧にならないように、輪郭を直線的に捉えるようにしてもらいました。また、光と影の境目も、意図的にはっきりさせています。

















P10号
実際にモデルさんを前にすると、見れば見るほど明暗や色合いが無限に変化して感じます。それをすべて絵具に置き換えるのは不可能です。(写真を使うとそれが可能のように思えてしまいますが・・・) そこで、必然的に「選択」とか「省略」とか「単純化」とか呼ばれる絵画的な作業が生まれます。リアルな表現を目指すMさんですが、形や空間が曖昧になりがちだったので、今回はあえてこの点を重視して描いてもらいました。結果的に、生々しい女性美の表現にはなりませんでしたが、構成とマチエールのしっかりした、魅力的な絵になったと思います。



2013年6月13日木曜日

本の紹介 8 モロー・ヴォチエー著 「絵画」

今回紹介する本は、モロオ・ヴォチエー著 「絵画」 (大森啓助訳) です。
昭和17年の出版で、戦時中にこのような本が出たのに驚かされます。多分戦争画の需要から、西洋の油絵の技法を、学ぶ必要があったのではないかと思います。

左:フランス語版原本 右:日本語翻訳版
フランス語版の原本は、1913年に“La Peinture"と題して、パリで出版されています。著者のモロオ・ヴォチエー(Charies Moreau-Vauthier 1857~1924)は、画家であり文筆家です。ジェロームやボードリーといった、19世紀後半のサロン画家の直系であり、ブグローとも交流のあった人です。ブグローをはじめ当時の画家の技法を詳細に報告した“Comment on peint aujourd'hui”というおもしろい本もあります。他に小説も書いていたようです。




 モロー・ヴォチエー作 「バラの死」








日本語版を原本と比べてみると、翻訳も、レイアウトも、出来るだけ忠実におこなおうとしているのが分かります。
















ただ、残念なことに、旧かな使いに旧漢字の文章は読み難く、翻訳単語の意味も正確に説明されていないものがあり、頭を傾げてしまう箇所がいくつもあります。



しかし、翻訳にそのような問題があるにせよ、西洋絵画の技術や考え方を知る上で、貴重な本です。












内容は、先史時代から19世紀までの技法史に始まり、色彩や各種の技法、それらに使う支地体や溶剤や顔料について述べられています。科学的研究の進んだ現在では、疑問に感じる人もいるかもしれませんが、当時の絵を学ぶには大変参考になります。
















そして、最後に「絵の保存」について、かなりのページを割いているのも、注目すべき点だと思います。日本では、未だに描く側にも、見る側にも、欠けている知識ではないでしょうか?













西洋絵画の奥の深さを感じさせると共に、戦争の直中にあって、この本を手にした画家達が、どのような絵を描いていたのか、考えてみるのも大切な事だと思っています。


2013年6月7日金曜日

三原色にもとづいて静物画を描く

長年カルチャースクールに通われていたMさんが、私たちのアトリエに来て、初めて描いた静物画を紹介します。



今まで、実際にモチーフを置いて、見て描くことをしていなかったそうなので、まずは、キャンバスと同じ大きさ(F10号)の画用紙に、遠近法の枠を使って、じっくりと鉛筆デッサンしてもらいました。


















出来上がったデッサンを、トレーシングペーパーを使って、キャンバスに転写した後、バーントアンバーとシルバーホワイトで、明暗を付けていきました。












下描きが、ほぼ出来た状態です。


細かく描写する必要はありませんが、この時点で、明暗の組み合わせやバランスが、取れていることが必要です。
















三原色の混色によって、対象の色を作っていきます。慣れるまで、思うような色ができませんが、色の混色原理を学び、明暗法に従って彩度や色調を変化させる練習として、とても有効な方法です。



基本色は、黄色がイエローオーカー、赤色がレッドオーカー、青色がコバルトブルーで、これにシルバーホワイトで明るさを調整します。

そして、より鮮やかな色が欲しい場合は、カドミウムイエロー、カドミウムレッド(またはクリムソンレーキ)、より暗いトーンが欲しい場合は、バーントアンバーとウルトラマシンを加えました。









F10号 花のある静物

初めて描いた三原色による油絵ですが、さすがベテランだけに、すぐにやり方を理解され、形や色のメリハリの効いた、とても良い作品になりました。少ない色数でも、意外に多くの色が作れるのに驚かれたと思います。現在画材店に行くと、どのメーカーも100色以上の絵具を販売してますが、そこから綺麗な色を選んで描いてみても、現実空間の中にあるモチーフの明度や彩度に合っていないとリアルな絵にはなりません。アトリエ ラポルトでは、まずは、三原色から絵具を選び、必要に応じて、絵具を足していくように薦めています。