2013年6月13日木曜日

本の紹介 8 モロー・ヴォチエー著 「絵画」

今回紹介する本は、モロオ・ヴォチエー著 「絵画」 (大森啓助訳) です。
昭和17年の出版で、戦時中にこのような本が出たのに驚かされます。多分戦争画の需要から、西洋の油絵の技法を、学ぶ必要があったのではないかと思います。

左:フランス語版原本 右:日本語翻訳版
フランス語版の原本は、1913年に“La Peinture"と題して、パリで出版されています。著者のモロオ・ヴォチエー(Charies Moreau-Vauthier 1857~1924)は、画家であり文筆家です。ジェロームやボードリーといった、19世紀後半のサロン画家の直系であり、ブグローとも交流のあった人です。ブグローをはじめ当時の画家の技法を詳細に報告した“Comment on peint aujourd'hui”というおもしろい本もあります。他に小説も書いていたようです。




 モロー・ヴォチエー作 「バラの死」








日本語版を原本と比べてみると、翻訳も、レイアウトも、出来るだけ忠実におこなおうとしているのが分かります。
















ただ、残念なことに、旧かな使いに旧漢字の文章は読み難く、翻訳単語の意味も正確に説明されていないものがあり、頭を傾げてしまう箇所がいくつもあります。



しかし、翻訳にそのような問題があるにせよ、西洋絵画の技術や考え方を知る上で、貴重な本です。












内容は、先史時代から19世紀までの技法史に始まり、色彩や各種の技法、それらに使う支地体や溶剤や顔料について述べられています。科学的研究の進んだ現在では、疑問に感じる人もいるかもしれませんが、当時の絵を学ぶには大変参考になります。
















そして、最後に「絵の保存」について、かなりのページを割いているのも、注目すべき点だと思います。日本では、未だに描く側にも、見る側にも、欠けている知識ではないでしょうか?













西洋絵画の奥の深さを感じさせると共に、戦争の直中にあって、この本を手にした画家達が、どのような絵を描いていたのか、考えてみるのも大切な事だと思っています。


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