2025年4月15日火曜日

展覧会「古典的石膏デッサンとその画材」

 今回は4月24日からギャラリー・エスパス・ラポルトで開催される展覧会を紹介します。
テーマは「古典的石膏デッサンとその画材」で、アトリエラポルトの受講生Kさん所蔵の19世紀後半にフランスの美術学校で制作された石膏デッサンを中心に、シャルル・バルグのオリジナルリトグラフや当時使われていた画材などを展示します。



期間中の5月4日・5日には、画材研究家の松川宣弘氏と画家の鳥越一穂氏によるワークショップ「作って試そう!木炭、インク、フェキサチーフ」もおこないます。
(参加希望の方はお早めに、kazuo@torilogy.net  までご連絡ください。)


また、3Dプリントによる超リアルな石膏像フィギュアや激安画材の販売もあります。



石膏デッサンを、今までにない視点から捉え直す機会になればと考えています。
皆様のご来場を心よりお待ちしております。


古典的石膏デッサンとその画材
会期: 2025年4月24日〜5月16日 (期間中無休)
開廊時間:10:00〜18:00
場所: ギャラリー・エスパス・ラポルト
   東京都中央区日本橋小伝馬町17-9  さとうビル1階
   Tel: 03-6661-0370.  https://espacelaporte.net



2025年4月4日金曜日

サテュロス全身像を描く

 今回はサテュロス全身像のデッサンを紹介します。
作者のSさんは現役の美大生で、これがラポルトで描く初めてのデッサンです。

サテュロス像は19世紀のフランスの美術学校でよく描かれた石膏像です。
アトリエラポルトにもその当時のデッサンがあります。

「サテュロス像」1890年頃
中間色の紙に木炭とチョーク


初めは線でできる限り正確にプロポーションをとった後、明部と暗部に分けて暗部から描いていきます。



続いて、明部のハイライトに向かってモデリングをして、各部の筋肉のボリュームをだしていきますが、ただ見て描くだけでは現象的な光に惑わされて正確な形は捉えられません。そこで、光の当て方を変えてみたり、解剖学の本を参考にして、存在する形を探しながら描き進めます。


モデリングをする際に特に注意する箇所は、明暗の境目からハイライトに向かって急激に明るくなる数ミリの移行部です。このハーフトーンの扱い方で、丸くなったり角張ったりと形の性質が変わります。



出来上がり。

サチュロス像 (650×500)  画用紙に鉛筆


さすがに現役の美大生だけあって、1枚目の石膏デッサンから完成度の高い仕上がりになりました。残念なのが、明部が背景の白さに対して少し暗く感じます。明部のハーフトーンの扱いに、より一層のデリケートな明度のコントロールが必要です。




2025年2月28日金曜日

本の紹介 「クロマトピア」

 今回は、友人がブックオフで見つけてきた素敵な本を紹介します。
題名は「クロマトピア」著者はデビィット・コールズで、エイドリアン・ランダーの撮った美しい写真とともに、顔料の歴史について書かれた本です。(2020年グラフィック社より発行)



著者のデビィット・コールズは、イラストレーターの父親のもと幼少期から色彩に囲まれて育ちました。美術大学で画材づくりを学んだの後にロンドンの画材店で働き、1992年にオーストラリアに移住して、専門家用の顔料とオイルメディウムを提供する会社を設立しました。40年近く色材づくりに携わる中から生まれたのがこの本です。



内容は次の10章からなっています。

Ⅰ,人類が最初に手にした色
Ⅱ,文明の始まりとともに
Ⅲ,ギリシャ・ローマ文明と色
Ⅳ,中世の色
Ⅴ,書字インクの色
Ⅵ,染料・レーキ・ピンク
Ⅶ,謎に包まれた色
Ⅷ,色彩の爆発
Ⅸ,色彩のすばらしき新世界
Ⅹ,現代科学が生み出した色

どのページも美しい写真とともに、詳しい解説が書かれています。


オーカー

チョークホワイト

クリソコラ

ラピスラズリ

ピーチブラック

バーミリオン

ネイプルスイエロー

セピア

マミーブラウン

ウルトラマリンのつくり方

今までにも顔料について詳しく書かれた本はありましたが、このように見て読んで楽しい本があるとは知りませんでした。顔料の進化は絵画表現の発展と深く関わっています。そのような視点から美術史を考えて見るのもおもしろいと思います。


2025年2月18日火曜日

マリア・スフォルツァ像を購入

 今回は新たに購入した堀石膏制作のマリア・スフォルツァ像を紹介します。


原作は、彫刻家フランチェスコ・ローラナ(Francesco Laurana.1430-1502)によって1470年頃にイタリアで制作されました。大理石像で、かつてはベルリン美術館に収蔵されていましたが、第二次世界大戦中の爆撃で破壊されてしまいました。現在はオリジナルから型取りされた石膏像が、イギリスやロシアの美術館に残っているそうです。(脇本壮ニ著「石膏像図鑑」より)


ルネサンス時代は言うまでもなくギリシャやローマ時代の「美」を規範としていましたが、この像にはゴシックの様式化された形態の面影を感じます。


次の絵は国際ゴシック様式の画家、ピサネロ(Pisanello 1395-1455)の作品です。ローラナが参考にしたのではないかと思えるほど似た形をしています。





モデルとなったイッポーリタ・マリア・スフォルツァは、ダ・ヴィンチのパトロンにもなったフランチェスコ・スフォルツァの娘で、ローラナは肖像彫刻として制作しているのですが、実物そっくりのリアルな像でないのが興味深いところです。デッサンをしながら、そのような時代背景や様式化について考えてみるのは大切なことだと思います


2025年1月27日月曜日

19世紀の描画材料

 今回はアトリエラポルトの受講生のKさんから譲って頂いた、19世紀末頃の描画材料を紹介します。


Kさんがこのような画材を集めたのは、19世紀のパリの美術学校で描かれたデッサンに使われていた画材と表現に興味をもたれたからだそうです。



調べていくと、今では使われなくなった描画材料がいろいろあることがわかりました。
入手できた物の中からいくつかを紹介します。


PIEERE NOIRE (ピエールノワール) : 元は天然の鉱物でしたが、それを合成して棒状にした物です。現在パリの美術学校が公開している資料によると、このようなデッサンは、PIERRE NOIREで描いたとされています。



これは、その先を尖らせるために使用したと考えられる砥石。



SAUCE (ソース) : 失われた描画材料で非常に貴重なものです。右側2本のガラス容器が粉末状で、左側が棒状(Le Velours á Sauce)です。これを擦筆につけたり、水に溶いたりして使っていたようです。とても淡く、ベルベットのようなハーフトーンの表現が可能です。



それに使用したと考えられる擦筆。上が現在もある紙製、下がセーム革巻いて作った珍しいものです。


 他にも、昔の鉛筆や木炭など興味深いものが沢山あり、これから時間をかけて調べたり試したりするのを楽しみにしています。画材の面からも19世紀のデッサンに迫っていければと考えています。





2025年1月10日金曜日

自然光で見るブグロー

 現在上野の国立西洋美術館ではモネ展が開催されていて(2/11まで)連日チケット売り場には行列ができていますが、並ばずに入れる常設展を目的に来る方は少ないかもしれません。

でも今回紹介したいのは、その常設展でモネと同時代に活躍したブグローの作品展示です。


前回この作品を見た時は、暗い部屋でスポット照明でしたが、今回は2階の自然光の入る明るい場所で、ブグローがアトリエで描いた時に近い状態で見ることができます。


ブグローは印象派の色使いに影響を受けていますが、その絶妙な取り入れ方がとても良くわかります。


ブグローの秀作が、このように常設展示(入場料500円)でいつでも気軽に見れるのはとても嬉しいことです。他にもブグローの少女像の代表作やボナ、エンネルなど19世紀のアカデミックな画家に興味のある方にはお薦めの展示です。モネ展の行列にうんざりしたら、是非こちらをご覧ください。(隣の部屋にはモネの作品もあります。)