2025年2月28日金曜日

本の紹介 「クロマトピア」

 今回は、友人がブックオフで見つけてきた素敵な本を紹介します。
題名は「クロマトピア」著者はデビィット・コールズで、エイドリアン・ランダーの撮った美しい写真とともに、顔料の歴史について書かれた本です。(2020年グラフィック社より発行)



著者のデビィット・コールズは、イラストレーターの父親のもと幼少期から色彩に囲まれて育ちました。美術大学で画材づくりを学んだの後にロンドンの画材店で働き、1992年にオーストラリアに移住して、専門家用の顔料とオイルメディウムを提供する会社を設立しました。40年近く色材づくりに携わる中から生まれたのがこの本です。



内容は次の10章からなっています。

Ⅰ,人類が最初に手にした色
Ⅱ,文明の始まりとともに
Ⅲ,ギリシャ・ローマ文明と色
Ⅳ,中世の色
Ⅴ,書字インクの色
Ⅵ,染料・レーキ・ピンク
Ⅶ,謎に包まれた色
Ⅷ,色彩の爆発
Ⅸ,色彩のすばらしき新世界
Ⅹ,現代科学が生み出した色

どのページも美しい写真とともに、詳しい解説が書かれています。


オーカー

チョークホワイト

クリソコラ

ラピスラズリ

ピーチブラック

バーミリオン

ネイプルスイエロー

セピア

マミーブラウン

ウルトラマリンのつくり方

今までにも顔料について詳しく書かれた本はありましたが、このように見て読んで楽しい本があるとは知りませんでした。顔料の進化は絵画表現の発展と深く関わっています。そのような視点から美術史を考えて見るのもおもしろいと思います。


2025年2月18日火曜日

マリア・スフォルツァ像を購入

 今回は新たに購入した堀石膏制作のマリア・スフォルツァ像を紹介します。


原作は、彫刻家フランチェスコ・ローラナ(Francesco Laurana.1430-1502)によって1470年頃にイタリアで制作されました。大理石像で、かつてはベルリン美術館に収蔵されていましたが、第二次世界大戦中の爆撃で破壊されてしまいました。現在はオリジナルから型取りされた石膏像が、イギリスやロシアの美術館に残っているそうです。(脇本壮ニ著「石膏像図鑑」より)


ルネサンス時代は言うまでもなくギリシャやローマ時代の「美」を規範としていましたが、この像にはゴシックの様式化された形態の面影を感じます。


次の絵は国際ゴシック様式の画家、ピサネロ(Pisanello 1395-1455)の作品です。ローラナが参考にしたのではないかと思えるほど似た形をしています。





モデルとなったイッポーリタ・マリア・スフォルツァは、ダ・ヴィンチのパトロンにもなったフランチェスコ・スフォルツァの娘で、ローラナは肖像彫刻として制作しているのですが、実物そっくりのリアルな像でないのが興味深いところです。デッサンをしながら、そのような時代背景や様式化について考えてみるのは大切なことだと思います


2025年1月27日月曜日

19世紀の描画材料

 今回はアトリエラポルトの受講生のKさんから譲って頂いた、19世紀末頃の描画材料を紹介します。


Kさんがこのような画材を集めたのは、19世紀のパリの美術学校で描かれたデッサンに使われていた画材と表現に興味をもたれたからだそうです。



調べていくと、今では使われなくなった描画材料がいろいろあることがわかりました。
入手できた物の中からいくつかを紹介します。


PIEERE NOIRE (ピエールノワール) : 元は天然の鉱物でしたが、それを合成して棒状にした物です。現在パリの美術学校が公開している資料によると、このようなデッサンは、PIERRE NOIREで描いたとされています。



これは、その先を尖らせるために使用したと考えられる砥石。



SAUCE (ソース) : 失われた描画材料で非常に貴重なものです。右側2本のガラス容器が粉末状で、左側が棒状(Le Velours á Sauce)です。これを擦筆につけたり、水に溶いたりして使っていたようです。とても淡く、ベルベットのようなハーフトーンの表現が可能です。



それに使用したと考えられる擦筆。上が現在もある紙製、下がセーム革巻いて作った珍しいものです。


 他にも、昔の鉛筆や木炭など興味深いものが沢山あり、これから時間をかけて調べたり試したりするのを楽しみにしています。画材の面からも19世紀のデッサンに迫っていければと考えています。





2025年1月10日金曜日

自然光で見るブグロー

 現在上野の国立西洋美術館ではモネ展が開催されていて(2/11まで)連日チケット売り場には行列ができていますが、並ばずに入れる常設展を目的に来る方は少ないかもしれません。

でも今回紹介したいのは、その常設展でモネと同時代に活躍したブグローの作品展示です。


前回この作品を見た時は、暗い部屋でスポット照明でしたが、今回は2階の自然光の入る明るい場所で、ブグローがアトリエで描いた時に近い状態で見ることができます。


ブグローは印象派の色使いに影響を受けていますが、その絶妙な取り入れ方がとても良くわかります。


ブグローの秀作が、このように常設展示(入場料500円)でいつでも気軽に見れるのはとても嬉しいことです。他にもブグローの少女像の代表作やボナ、エンネルなど19世紀のアカデミックな画家に興味のある方にはお薦めの展示です。モネ展の行列にうんざりしたら、是非こちらをご覧ください。(隣の部屋にはモネの作品もあります。)


2024年12月27日金曜日

アングルの模写を試みる

 今回はアングル晩年の傑作「モワテシエ夫人」の肖像画を、画像資料から模写を試みたKさんの制作過程を紹介します。

使用した画像資料は、収蔵先のワシントンナショナルギャラリーがネット上で公開している超高画質データーを原寸大でプリントアウトしたものです。ひび割れまで鮮明に分かる解像度で、色の微妙なニュアンスも良く再現できていると思います。



今回の模写は、アングルの絶妙なモデリングによるボリュームの表現を学ぶ目的でおこないました。明暗の変化に寒暖の色相が加わったアングルの技術に、どこまで近づけるかがポイントです。

まずはできる限り正確にキャンバス上に鉛筆でデッサンをしました。



油彩の始めは色を除いて、単色で形と明暗を再現します。





固有色を上塗りします。



下塗りのグレーをハーフトーンや暗部に生かしながら肌色の変化を表していきました。


滑らかなモデリングには、筆選びや筆運びが重要になります。試行錯誤を繰り返しながらより良い方法を探していきました。



終了。

アングル「モワテシエ夫人」の部分模写(600×500)

修正を繰り返しながら描いたので絵具層がガタガタで、アングルの真珠のような滑らかなマチエールとはほど遠い仕上がりになってしまいましたが、目的とした明暗に色相(寒暖)の変化が加わったモデリングによるボリュームの表現は、うまく再現できたと思います。
自身の作品に生かして頂けるように願っています。




2024年12月16日月曜日

遠藤文子・森田わかえ「ふたりてん」

 今回はアトリエラポルトで学ばれている遠藤さんと森田さんの二人展の紹介です。
お二人とも基礎から始められて、現在は自由な創作活動をされています。それぞれの想いのこもった作品を是非ともご覧ください。

場所 ギャラリー・エスパス・ラポルト
    東京都中央区日本橋小伝馬町17-9   さとうビル1階
会期 2024年12月16日(月)〜23日(月)
    平日 10:00〜18:00  
    土日 12:00〜18:00









2024年11月13日水曜日

本の紹介「ウフィツィ美術館蔵 ラファエルロ素描集」

 今回は1984年に岩波書店からファクシミリ版(カラー印刷)で出版された「ウフィツィ美術館蔵 ラファエルロ素描集」を紹介します。



発売当時は大変高額な画集(280,000円)で、総皮の手の込んだ装丁の大型本(520×380)として999冊限定で出版されました。


中を開いてみると、詳しい解説書と図版が1枚ずつ取り出してみれるようになっています。
この画集の一番の魅力は、ラファエルロのデッサンが精巧な印刷で実物と同じサイズで見れることです。



ラファエルロは言うまでもなくルネサンス時代のイタリアを象徴するような偉大な画家で、後の時代の絵の規範として長い間大きな影響を与え続けました。

ここに収められているウフィツィ美術館収蔵の31枚のデッサンは、ラファエルロの初期から晩年までの代表的な作品が集められています。また技法もペンを使ったものから白チョーク・黒チョーク、銀筆(シルバーポイント)、サンギーヌ、ビスタ(Bistre)、鉛白まで多彩で、表現も変化に富んでいます。


例えば、1枚目は友人の画家ピントゥリッキオために描いたモデル素描です。
大きさは70㎝×41㎝もあります。


近づいてみると、ペンで形態を描いた上から白(鉛白)と褐色(ビスタ)で明暗をつけていることがわかります。



以下、年代順にピックアップした表現技法を見ていきます。


横向きの女性  (25.6×16)
銀筆、ペン、黒チョーク、白のハイライト(鉛白)


 

聖ゲオルギウスと竜. (26.2×21,4)
ペン (輪郭に沿って転写した時についた無数の穴が見れる)



聖母子. (21.3×18.4)
黒チョーク、白チョーク、銀筆の跡



キリストの埋葬  (28.7×29.8)
ペン、若干の黒チョーク



聖母子と幼い聖ヨハネ. (28.4×19.1)
ペン、銀筆の跡



「聖体論議」の中のアダム. (35.7×21.2)
黒チョーク、白チョーク



サンタ・マリア・デラ・パーチェ教会のフレスコ画のための習作
サンギーヌ. (33.2×23.9)



「聖ペトロの解放」のための習作. (25.6×41.6)
ペン、ビスタ、鉛白、黒チョークの跡



「フランソワ1世の聖母」のための習作 (33.6×21.4)
サンギーヌ、銀筆の跡



パンテオンの内部景観. (27.8×40.6)
2種類のインクとペン
*このローマ時代に建築されたパンテオンの中に
後の時代にラファエルロの墓が造られた。


ラファエルロの生きた時代は、絵画の技法がテンペラから油絵への移行期にあたる上に、ダ・ヴィンチによって明暗法が確立された時期にも重なります。そのような背景を考えながら眺めると、ラファエルロのデッサンの変遷の中にもその影響が表れています。ただ「うまい」とか「美しい」だけでは終わらせられない絵画表現の奥深さを感じます。

余談ですが、現在古本市場ではこのような大きくて重たい豪華本の値段は暴落しています。アトリエラポルトで購入したこの本は、神保町で約20,000円でした。発売当時は見ることすらできなかった本がこのような値段で手に入るのは嬉しいことですが、出版に携わった方々の労力や資料的価値の高さを考えるとちょっと寂しい気もします。