2014年2月13日木曜日

デッサンからグリザイユへ

今回は、デッサンから油絵に移行する場合の一例を紹介します。

普通油絵具を使う段階になると、まず「色」の表現から入る方が多いと思います。画材屋さんの油絵具のコーナーに行けば100色を超える絵具が並んでいて、そこから好きな色を撰んで描くのも楽しいことです。しかし、対象を見て現実の空間を再現しようとする場合、重要なのは「色」よりも明度関係(Valeur)を的確に捉える力です。どんなに綺麗な色を塗っても、明度が違っていればリアルな絵にはなりません。アトリエラポルトではこの点を重視して、デッサンから油絵に移られる方には最初にグリザイユを薦めています。

右:中間色のキャンソン紙に描いたデッサン
左:トレーシングペーパーで移したデッサン
以前このブログでデッサンを紹介したKさんは、油絵を描くのは高校生以来だそうです。

そこで前回描いたデッサンを使って、画材の説明を交えながらグリザイユから油絵を始めてもらいました。














最初にトレーシングペーパーを使って、デッサンをキャンバスに転写します。


使った絵具は、暖かい黒としてアイボリーブラック、冷たい黒としてランプブラック、それに白としてシルバーホワイトです。 明度が分かりやすいように、白いキャンバスに合わせてガラス板パレットの下に白い紙を敷いています。
キャンバスに転写したデッサンを、溶き油でなぞって定着した後、背景から描いていきます。
パレットには、あらかじめ白と黒の間に3~5段階位のグレーを作っておくと、明度を合わせやすく制作もはかどります。
背景と机の明度が決まったら、テーマの果物を描いていきます。
明度関係の再現に加えて、遠い所や影の部分には冷たい黒(ランプブラックまたはピーチブラック)で作ったグレー、近い所や光の当たっている部分には暖かい黒(アイボリーブラック)で作ったグレーで描いていきます。そうすることで、より自然な光の輝きや空間が表現できます。


静物のグリザイユ(P10号)

約25時間で仕上がりました。入念なデッサンをおこなった後のグリザイユだったので、形や明暗を迷わずに捉えるのことができたと思います。その上に油絵具独特の物質感が対象の質感に転化され、油絵らしい重厚な表現になっています。画像では分かり難いのですが、暖かいグレーと冷たいグレーの使い分けも的確で、自然な空間と光の輝きを感じさせます。

Kさんにとっては、高校生以来の何十年ぶり(?)かの油絵で、途中で絵具の扱いに戸惑われた場面もありましたが、鉛筆や木炭と違う油絵具のおもしろさを感じて頂けたのではないかと思います。



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