今回紹介する本は、今から30年前(1989年10月)に渋谷の松濤美術館で開催された「19世紀ローマ賞絵画」の図録です。
フランスのアカデミックな絵画や教育が、どのようなものであったかを知る上での貴重な資料です。
近代の絵画の歴史は、このようなアカデミズムに対する反発や否定から生まれた為に、今では美術学校の倉庫にしまわれている作品群です。
特に日本では、西洋絵画の受容がその時期と重なった為に、ほとんど知られること(見ること)がなかったと思います。
しかしそれは3世紀にわたり西洋絵画の基礎を形作っていたものであり、西洋絵画を理解する上で欠かせない文化遺産とも言えるでしょう。
この図録の価値は、単にローマ賞受賞作品を並べただけではなく、当時のローマ賞を頂点とした教育システムが詳しく解説されている点にあります。
その内容は、この展覧会からさかのぼること3年前(1986年)にパリの美術学校から出版された全4巻におよぶ「LES CONCOURS DES PRIX DE ROME」の中からの抜粋翻訳です。
余談になりますが、この文献には1797年から1863年までのすべてのローマ賞受賞作品とそのエスキース、それらに関する資料と論文が載っています。
その学術的なレベルの高さに驚くばかりです。
松濤美術館の図録では、その中から63点の受賞作が載せられています。
ピエール・ナルシス・ゲラン「小カトーの死」1797年 |
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル 「アガメムノンの使いを迎えるアキレウス」1801年 |
左:ポール・ボードリー「アラクス川岸で牧人達に発見されるゼノビア」1850年 右:ウイリアム・ブーグロー「アラクス川岸で牧人達に発見されるゼノビア」1850年 |
ジャン・シャルル・ジョゼフ・レモン「プルトンに連れ去られるプロセルピナ」1821年 *歴史的風景画がローマ賞に加えられたのは1817年からです |
写実的絵画がブームのようになっている今の日本ですが、その拠り所がデジタル写真やパソコンではなく、このような絵画に向かった時に、はじめて西洋と同じ視点から写実絵画について考えれるのではないかと思っています。
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