古い絵のクリーニングの過程の後半を紹介します。
このくらい古いニスが取れてくると絵の全体の感じがわかってきますが、同時にどの程度までニスを取るべきか迷うところです。
この画家の他の作品資料を見ると、描いた当時はかなり背景がグレーで果物の色も鮮やかだったようです。しかしそれに近づけようとすると、オリジナルの絵具も取ってしまう恐れがあります。特に上層のグレージングはニスとの識別が極めて難しいところです。
古いニスをどこまで取るかについては、それぞれの国の美術館や修復家の間でも意見が異なります。
大雑把に言って、イギリスやアメリカでは古いニスはすべて取るのに対して、フランスでは絵を傷めないようにわずかに残すようにしています。
そのために同じ画家の作品でも、イギリスやアメリカの美術館の収蔵作品とフランスの美術館の収蔵作品とでは異なった印象を受けることがよくあります。
余談ですが、現在開催されているメトロポリタン美術館展の作品は、どれも驚くほど綺麗にニスが取られてました。また、その前に開催されていたフェルメール展の中の「窓辺で手紙を読む女」は、修復によって壁から画中画が表れて話題になりましたが、絵の表面のツヤむらが激しく、オリジナルの絵具層にかなりのダメージを与えたのではないかと心配になりました。
今回のクリーニングでは、絵の見栄えよりも安全性を優先して、鑑賞に差し支えない程度にニスを残すことにしました。個人的にも時代を経た感じがあった方が自然に思います。
クリーニング終了
クリーニング前
仮引き用ニスを塗って、ツヤを整えます。
断続的に約1か月かかってクリーニングが終了しました。修復全体としては穴埋めや剥離の補修やリタッチなどもおこないました。絵画教室でこのような絵の修復作業を見れるのはまれな事だと思います。受講生の方々に絵の修復の難しさと「油絵の神秘」を感じて頂けたら幸いです。
0 件のコメント:
コメントを投稿