2015年8月13日木曜日

本の紹介 16  デューラー「測定法教則」


今回紹介する本は、アルブレヒト・デューラーの「測定法教則」(下村耕史 訳編、中央公論美術出版 2008年)です。

原本は、1525年にドイツで出版され、表題は「線、平面、立体におけるコンパスと定規による測定法教則、理論を愛するすべての人の利用のために、アルブレヒト・デューラーの著した説明図付きの書。1525年印刷」となっていますが、長いので訳者が、「測定法教則」 にしたと思います。いえわゆる絵画・彫刻・建築を学ぶ人のための教科書で、その後ラテン語などに翻訳されヨーロッパ中に広まり大きな影響を与えました。












これは、時代を経て1977年にアメリカで出版されたものです。
題名が「THE PAINTER’S MANUAL」 となっているのがおもしろいところです。

ページの左側に原文が忠実にコピーされていて、右側に英文による翻訳が併記されています。




さて、今回日本で出版された「測定法教則」をみていきます。本文は全4章からなり、線→面→立体→遠近法という流れになっています。

第1章は、線についの説明から入り、直線・曲線の接合方法、螺旋やさまざまな曲線の書き方が説明されています。



















第2章は、面に関する作図法で、多角形の作図からそれらを組み合わせたパターンまでが説明されています。


第3章は、立体に関する作図法で、具体的に建築物やモニュメントの一部を使って説明されています。また後半にはアルファベットの書体と書き方も載っています。
第4章は、多面体の展開図、そして遠近法の作図が出てきます。これは遠近法に関する出版物としては最も古い物の一つです。掲載されているイラストは、今でも遠近法関連の本によく引用されます。













遠近法の作図は立方体を例にして説明されています。

左は、側面図と上面図、それを見る鑑賞者の目の位置と光源の位置が示されています。







それを使って描かれたパース図。


















左は、鑑賞者と画面とパース図のと関係が示されています。鑑賞距離によるパース図内の奥行の変化がよく分かるイラストです。































最後に遠近法の器具を使って絵を描くイラストが載っています。左下の碁盤状の升目を使った方法は、アトリエラポルトでも採用しています。













デューラーの「測定法教則」は、今の私達から見ると絵の教則本とは言えない内容に思えますが、実は西洋の造形芸術の根底に「幾何学:Geometre」が存在することを示す貴重な文献です。
そして西洋の造形芸術に使われる「形」とは、幾何学的形がベースになっているのが理解できると思います。

例えば、セザンヌは「自然を円筒、球、円錐によって扱う」という有名な言葉を残していますが、この本を読むと古くからある西洋絵画の「物の捉え方」の上に立っていたのが分かります。それは後のキュビズムやモンドリアンなどの抽象絵画にまで繋がる西洋の伝統的思考法とも言えるでしょう。


2015年7月27日月曜日

アトリエの道具と画材 9 「アトリエの照明」


今回はアトリエの照明を紹介します。

デッサンにしろ油絵にしろ、対象を見ながら制作する上で重要なのは「光」です。自然光で描ければ理想的なのですが、教室の置かれている状況では叶いません。そこで照明器具を工夫する必要が生じます。





アトリエラポルトでは、部屋全体を照らす照明としては右のように40Wの蛍光灯を使用しています。

蛍光管は、パナソニック製の美術館用蛍光灯(FL40SN-EDLNU昼光色)です。友人の画家から薦められて使うようになりましたが、演色性が抜群に良いだけではなく、光に温か味があり肌色などが大変綺麗に見えます。その上紫外線カットになっています。

モチーフを照らす光としては、ハロゲンスポットライトを使っています。ハロゲンスポットは照射角が狭く、教室のように小さなスペースにセッティングされたモチーフを照らすには最適です。

光は色温度が3000k程度の電球色のような光ですが、熱線にあたる領域が少なく、赤色がやたらに赤く飛び出して見えるようなことはありません。例えて言えば、モチーフ全体が平均的に赤み(茶色味)を帯びる感じです。

右は以前にも紹介したスパイラル蛍光灯(ジェフコム社製 昼光色)です。
(2013年8月9日 アトリエの画材と道具 3)

移動がしやすく、光量も十分あるのでとても重宝しています。制作スペース全体を照らす明かりとしても、モチーフ用の照明としても使っています。ただ昼光色の光なのですが、先ほどの「美術館用蛍光灯」と比べると冷たい光で、ちょっと見劣りがするのが残念です。

これは人物を描く時のために自作した照明器具。

先のスパイラル蛍光灯の登場で出番がなくなりました。

以上のような照明をそれぞれの制作状況に合わせて使っています。

周囲に光がもれならないように、カーテンやパネルを使って防いでいます。



出来るだけ良い光の条件で、落ち着いて制作できるように心がけています。

2015年7月13日月曜日

サイトサイズで描いてみる


画家を目指して勉強中のK.hさんが、サイトサイズ法でグリザイユを描かれたので紹介します。

サイトサイズ法については、大分前のブログ(2011年7月9日)で説明しましたが、現在アメリカを中心とする「クラシカルペインティングアトリエ」の多くで行なわれているやり方です。


モチーフと画面を平行に並べて一定の距離を置いた地点から見比べながら描いていきます。
初心者でも形や明度の狂いが分かりやすく、見た状況の再現に適した手法です。













上下は水平移動、左右は図って、主要なポイントを取って、直線で結んでいきます。








余談ですが、サイトサイズ法は、立ってキャンバスと鑑賞地点との間を行ったり来たりしながら描くので、かなり体力を消耗します。また、広いスペースを必要としますので、狭いアトリエではやり難い方法です。


線で大まかな形を取った段階です。
西洋のクラシックなデッサンの定義では、線は直線と曲線の2種類から成り、簡潔な言い方をすると、「直線は定規で引いた線、曲線はコンパスで引いた線」となります。


通常の絵のデッサンでは、定規やコンパスを使う事はありませんが、線を引く時にそのような幾何学的な線の意識を持って対象を捉えることで、線分の長短や直線・曲線の組み合わせによって、明瞭で美しい形が生まれるのが実感できると思います。それは、キュビズムなどの抽象絵画にも繋がる重要な造形要素の1つです。

K.hさんは徹底してデッサンを勉強してきただけに、形やボリュームはうまく捉えられていますが、現実の石膏像の白さを出すのに苦労されました。












石膏像グリザイユ P10号



サイトサイズ法で、視覚的に自然な表現に仕上がってます。

例えば髪の毛を近づいて見ると、太めの筆でざっくりと描いていますが、離れてみるとリアルに感じられます。それは鑑賞距離から見て、適切な明度関係と描写の密度を持っているからです。細密描写をすればリアルになる訳ではないのです。

サイトサイズ法は、単に形が取りやすいだけではなく、「絵のリアリティーとは何か?」「自然な空間表現とは何か?」を考える上でも大変有意義な手段だと思います。










2015年7月3日金曜日

基本に戻って

主に旅の思い出をテーマに制作されてきたM.aさんが、今回は基本に戻って石膏像を中心に静物画を描かれました。その制作過程を紹介します。













石膏像は言うまでもなくデッサンがしっかりしていないと絵になりません。そこで今回は画面から距離をおいてモチーフと比較しながら描けるように、アトリエラポルト特製の長い鉛筆ホルダーを使ってデッサンして頂きました。





キャンバスと同じサイズに描いた鉛筆デッサンを転写して、バーントアンバーで明暗を付けていきました。








明暗の配置が決まったら、ダイレクトペインティングの手法で現実に近い色をパレット上で混色して、直接キャンバスに置いていきます。



石膏像のような白いモチーフを描く時のコツは、いったん明部を見た目より明るく(ほとんどシルバーホワイトで)描き起こすように絵具を置いた後、半透明の固有色をかけて色合いを合わせていくことです。この工程を何度か繰り返すと輝くような白さを得ることができます。














キューピット像のある静物 (M8号) 




明暗の関係や形のボリュームが的確に捉えられている為、細密に描写していなくてもリアリティーと存在感のある絵に仕上がっています。絵具の発色も鮮やかです。M.aさん流の筆のタッチが、個性的表現として感じられます。








習作のつもりで描き始められましたが、立派な作品として鑑賞できるレベルになっていると思います。額装してお部屋に飾られるといいですね|

2015年6月20日土曜日

バルバローニ作(旧ドナテルロ)の少女像を描く


今年の1月からアトリエラポルトでデッサンを学ばれているS.eさんの作品を紹介します。本職がイラストレーターだけあって,大変緻密なデッサンを描かれています。同じ方法論で描いて頂いても、出来上がった作品に個性が表れる良い例だと思います。


















今回のモチーフの少女の石膏像は、長い間ドナテルロの作品と言われてきましたが、このブログを書くにあたって調べてみたら、「石膏像ドットコム」というサイトに、バルバリーニというロココ時代の彫刻家の作品と判明したという記述がありました。興味のある方はそちらも是非ご覧ください。
http://ameblo.jp/sekkouya/entry-11355655821.html







手順はいつも通りで、まず線で出来る限り対象の形を捉えていきます。Sさんは、驚くほど細く鋭い線でほとんど線を重ねることなく描いていかれました。



















次に明部と暗部に分け、暗部全体をハッチングで暗く落としました。その後暗部から個々の形をモデリングすることによって明部の石膏の白さを表すように進めていきました。





バルバローニ作 少女像 画用紙に鉛筆(530×455)


画像では分かりにくいのですが、影の中の細部の形まで曖昧にすることなく描き込んだ力作です。反射光を明るくしすぎてボリューム感が少し足りないのが残念ですが、基礎のデッサンとしては十分目的に達していると思います。木炭を黒々と付けて迫力や感情を表す石膏デッサンとは対極にありますが、下記のアカデミックなデッサンの例に近づいた表現になっています。















次のデッサンは19世紀の画家が描いたもので、左側はブグロー(W.Bouguereau 1825~1905)のデッサン(鉛筆)、右側がジュリアン(B.R.Julien 1802~1871)のデッサン(リトグラフ)です。現象的な陰影を追わずに実存する形を克明に表す西洋のデッサンの基本的な手法で描かれています。

2015年6月10日水曜日

基礎デッサン 2


前回(3月3日のブログ)の基礎デッサン1で作品を紹介したM.wさんと同じように、家事と仕事の合間を縫ってアトリエラポルトに通われているK.nさんの作品を紹介します。


















画用紙に鉛筆 (F10)


画用紙に鉛筆 (F10)



















画用紙に鉛筆 (F10)

























グレーのキャンソン紙に木炭+コンテ鉛筆の白と黒 (340×420)

それぞれの課題を地道にコツコツと丁寧に描かれている姿が想像できるような作品だと思います。
モチーフのボリュームや前後関係、質感もうまく表現されています。特に光から影への移行部の変化を敏感に捉えられていて、とても美しいデッサンになっています。油絵の制作に繋げていって頂ければと思います。


2015年6月4日木曜日

カマイユ

デッサンからグリザイユへと順を追って学ばれてきたK.rさんが、今回は静物をカマイユで描いてみました。その制作過程を紹介します。


カマイユ(Camaieu)は、明暗だけで表現した単色画の総称で、イタリア語でバーレリーフを意味していた「カメオ」から派生した用語です。その意味からするとグリザイユもカマイユに含まれますが、一般的には茶色や褐色系統の色合いで描かれたものを指すことが多いと思います。






まずは、キャンバスと同じサイズの画用紙に入念にデッサンして、それをキャンバスに転写しました。
基本的な描き方はグリザイユと同じですが、茶系の絵具は、白を加えると冷たくなったり、溶き油で透明に扱うと暖かくなったりと、色味の振幅が激しいものです。そこを調整しながら描いていくのが難しいところです。

今回は、ヴァンダイク・ブラウン(ニュートン社製)とシルバーホワイトに、色合いの調整としてアイボリーブラックを加えました。


モチーフの色に惑わされずに明暗に置き換えて描いていくのに苦労されたようですが、リアルな絵画表現を目指すには欠くことのできない訓練です。













カマイユによる静物画 (F6号)



油絵に移ってから2枚目の作品ですが、非常に良い出来栄えです。絵具の厚みがもう少し欲しいところですが、明暗の変化や寒暖の調整がデリケートで美しく、すでにK.rさんの持ち味が表れているように思います。次回の制作を楽しみにしています。