2016年6月6日月曜日

散策 山梨県立美術館

今回は、,山梨県甲府市の「芸術の森公園」内にある山梨県立美術館を紹介します。



1978年に開館したこの美術館は、開館に合わせて購入したミレーの「種まく人」で一躍注目を集め、大勢の観光客が押し寄せたことで有名になりました。

その後の地方美術館建設ブームのさきがけとなったた美術館です。





ブールデル作「ケンタウロス」がお出迎え



バルビゾン派を中心に地道にコレクションを増やし、2009年には専用の常設展示室として「ミレー館」増設してリニューアルオープンしました。


















入口の正面に広がるエントランスから2階に上がるとミレー館があります。












ミレー館入口

ミレーの作品以外にも、クロード・ロラン(必見!)、ロイスダール、コロー、クールベ、ルソー、トロワイヨン、デュプレ、ドーピニーなどの素晴らしい作品が展示されています。








ミレー「種まく人」 1850年 (99.7×80.0)


これが、かの有名な「種まく人」。

日本では、戦前から岩波文庫のロゴとしてお馴染みの絵です。1977年に東京銀座の飯田画廊がアメリカのオークションで約2億円で落札して、この美術館に収めて話題になりました。金額もさることながら、まったく同じ構図の「種まく人」がボストン美術館にもあり、真偽論争も加わって当時マスコミを騒がせました。その効果もあって、地方の美術館としては驚異的な来館者数となったそうです。











ミレー「オノの肖像」1841年頃
(73.0×63.0)
ミレー「落穂拾い」1853年
(38.3×29.3)
ミレー「夕暮れに羊を連れ帰る牛飼い」1857年頃
(53.5×71.0)

ミレー「眠れる」お針子」1844年頃
(45.7×38.1)
ミレーの作品は、この他にも油絵、パステル、デッサン、版画を見ることができます。





コレクションを鑑賞した後は、1階のレストランがお勧めです。


本棚に並んでいる画集を見ながら、ドリアでもいかがでしょうか?














美術館を出ると、目の前に先ほど見たバルビゾン派の木々を描いた絵と同じような風景に出合います。











手前の彫刻は、ザッキン作の「ゴッホ像」
奥が山梨県立文学館



美術館の向かいにある建物は、山梨県立文学館。近世から近現代の山梨県ゆかりの文学者に関する資料を収集・展示しています。














山梨県立美術館: 山梨県甲府市貫川1-4-27(芸術の森公園内) ℡:055-228-3322
        常設展観覧料  一般 510円
        開館時間     9:00~17:00(入館16:30まで)
        休館日      月曜日(祝日の場合はその翌日) 



2016年5月14日土曜日

黒い背景の静物

今回はアトリエラポルトで学ばれて3年のK.yさんの制作過程を紹介します。

これまでに習得した技術を、自身の作品にどのように生かすかを模索しているところです。






そこでモチーフは、教室の物ではなく、わざわざ房総の海まで行って拾ってきた流木と枯葉、セティングは黒い背景を使って組まれました。







最初にキャンバスと同じサイズ(P15号)の画用紙に構図を考えながら鉛筆デッサンをしました。



描き上がったデッサンをキャンバス(クレサン社製66番)に転写して、カッセルアースに少量のブラウンオーカーで色味の調整をしながら明暗をつけていきます。




ここで気を付けなければならないのは、黒い背景の場合、モチーフ全体は背景より明るくなるので、シルエットが美しい組み合わせ考えることです。





一通り明暗が付いたら、シルバーホワイトで明部を描き起こします。こうすると、しっかりとしたマチエールになり、上層の絵具の発色も良くなります。



彩色に入ります。

基本色のイエローオーカー、レッドオーカー、バーミリオン(またはカドミウムレッド)、ウルトラマリン、アイボリーブラックに、K.yさんの好みの色を加えていって、現在は左のパレットのようになっています。




最初は全体の色味のバランスを考えながら、下描きを生かして薄めに色をつけていきます。




徐々に濃い絵具を何層も重ねて、現実の色に近づけます。


















静物 (P15号)



モチーフのセッティングだけで20時間以上かけただけあって、ピラミッド形に螺旋を組み合わせた大変凝った構図になっています。

こってりと絵具がのった美しいマチエールで、貝や木の質感を良く表しています。習作を越えて、K.yさんの作品になっていると思います。

課題としては、技術面では、透明色をかけた(グラッシ)部分が浮いて見えないようにすること、色彩面では、反対色(例えば補色)を効果的に使う工夫をすること、が上げられます。

コンクールなどに出品されてもいいレベルの作品だと思います。







2016年4月17日日曜日

絵の修復 : 洗浄(Nettoyage)


今回は、絵の表面の洗浄によって、どれだけ絵が変わるかを見ていきたいと思います。

修復する絵は、1830年頃に描かれた作者不明の肖像画です。




使用する用材は、精製水に5%のアンモニアを加えたものです。洗浄用の用材には、その状況に合わせてさまざまな種類がありますが、これはその中でも最も弱い(安全な)ものです。

綿棒に洗浄液をつけて、絵の隅の方から汚れの取れ具合や絵具の状態を慎重に見極めながら少しずつ拭いていきます。


綿棒が汚れてきたらすぐに新しい脱脂綿に交換します。
また、一箇所を長い時間しつこく洗浄するのは避けて、水分を飛ばしながら(乾かしながら)作業を進めることが肝心です。

右の画像は、肩の半分まで洗浄した状態です。絵の汚れ具合に驚かされます。



いよいよ顔に入ります。




今まで見えなかった頬の赤みやブルーグレーのニュアンスが現れました。



ブルーの瞳や影の透明感、ハイライトの明るさと筆触が良く分かるようになりました。


















クリーニングが終わった状態です。

絵全体の汚れによる黄ばみが取れて明るくなりました。デリケートな色合いの変化やモデリングが表われ、輝くような肌色が蘇りました。

通常の修復過程では、この後欠損部分の補筆して、ニスを塗って仕上がりとなります。




2016年4月4日月曜日

明るい絵を描きたくて

アトリエラポルトに通われて約2年半、マイペースでデッサンから油彩グリザイユへと進まれてきたK.yさんが初めて描いた多色の油絵を紹介します。


多色の油絵と言うと、今までもこのブログで紹介してきたように、果物や花や陶器など色鮮やかなモチーフを選ぶ方が多いのですが、K.yさんはあえて白くて明るいモチーフを白い背景で描くことに挑戦しました。

うまくいくととても斬新で現代的な表現になりますが、僅かな明暗差や色合いの変化で空間やボリュームを表さなければならず、大変難しいセッティングです。

使用絵具
シルバーホワイト、チタニュームホワイト、イエローオーカー、カドミウムイエロー、バリュームイエロー、レッドオーカー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド、クリムソンレーキー、ウルトラマリン、ヴリジャアン、バーントアンバー、ローアンバ、アイボリーブラック、ランプブラック

描き始めは、シルバーホワイトとアイボリーブラックに微量のウルトラマリンを加えて寒暖の調整をしながら明暗を追っていきました。

徐々に色を加えていき、固有色を表します。

ここで忘れてはならないのは、グリザイユの時に学んだ寒暖の扱いを色にも応用することです。

例えば貝のクリーム色のような固有色を塗る場合も、ハイライトに向かって暖かく、影に向かって冷たくなるように色相を微妙に変化させることで、より自然な奥行きやボリュームが出るように心がけます。





このようなハイキーの絵は、輝くような明るさ(白さ)が出ないと魅力的な絵にはなりません。
ところが油絵具のシルバーホワイトは意外に被覆力がなく、何層も塗り重ねないと抵抗感があって輝くような白い発色が得られません。







貝と幾何形体 (M10号)



ゆっくりと焦らずに休みながら約10ヶ月かけて完成しました。

慎重にデッサンの狂いを修正したり、明暗や色合いを調整したりしているうちに、絵具が何層にも重なり、しっかりとしたマチエールと美しい発色の絵になりました。


一見モノクロームの絵のようですが、個々のモチーフの固有色の違いと、光から影への色合いの変化が良く表現されています。(画像では分かりにくいのが残念です)

このような絵は、目を引き付けるようなインパクトはありませんが、部屋に掛けてじっくりと眺めていると、いろいろな色が見えてきて飽きないものです。

とてもユニークな絵ができたと思います。






2016年3月23日水曜日

アポロ像を描く

美大と専門学校で学ばれてきたO.kさんの石膏デッサンを紹介します。遠近法にもとづいた正確な形を捉えることが、あらゆる造形表現の基礎となるとの思いからアトリエラポルトで学ばれています。





アポロ像は大型の石膏胸像で、その大きさと髪や服の繊細なレリーフを表現するのが大変難しい石膏像です。

原作は、紀元前4世紀のギリシャの彫刻家レオカレスのブロンズ作品をローマ時代に大理石に模刻したものです。15世紀にローマ近郊で発見され、18世紀に新古典主義の流れを作ったヴィンケルマンが著書「ギリシア芸術模倣論」の中で、ギリシャ文明の象徴のように称賛しています。現在はヴァティカン美術館のヴェルヴェデーレの中庭に展示されています。








まずは、遠近法の枠を使って、適切な鑑賞距離に視点を固定して形を取っていきました。



ほぼ線で形が取れた段階です。



遠近法の枠を取り外して、影側から描いていきます。


徐々に明部に移っていきますが、背景の紙の白より石膏像が明るく見えるように、影の配置やコントラストの調整を考えながら描き進めます。




布のボリュームを表すには、布の皺の中の光と影の境目を落ちる影よりも暗くする必要が生じます。現実には落ちる影側の方が暗く見えることがよくありますが、そのまま引き写すと二次元の平面ではボリュームが弱く感じる場合があります。
















アポロ像 画用紙に鉛筆 (650×530)




25時間以上かけて仕上がりました。

「存在する形はすべて描く」を基本に、髪の毛や布などの細部まで陰影で曖昧にならないように注意して描いて頂きました。結果的に頭部などの大きなボリューム感が少し弱くなってしまいましたが、個々の形をよく描き切った秀作だと思います。

アトリエラポルトでは、基礎デッサンは現象的な陰影の再現を目指すのではなく、対象の形とボリュームや前後関係を的確に表す技術を学ぶことを目的としています。それは将来の幅広い創作活動(アニメやイラストなども含めた)へとつながるものだと考えているからです。



2016年3月4日金曜日

初めての彩色

基礎デッサンからグリザイユへと段階を追って学ばれてきたK.nさんが、初めて色を使った油絵の制作過程を紹介します。



最初は基本どおり線で形を取っていきました。

一般的に油絵は明暗から始めるように指導される教室が多いと思いますが、アトリエラポルトではデッサンとの繋がりを考え、無骨に見えても形が曖昧にならないように線できっちりと捉えることから始めるようにしています。





次にシルバーホワイトとバーントアンバーだけで明暗を付けていきます。特に初心者の方はモチーフの色を明度で見ることに慣れていないのでこの過程を薦めています。



色は最も明るくて彩度の高いモチーフからつけていきます。

そしてこの明るさを基準にその他の色合いを決めるようにアドバイスしました。この進め方は、絵全体が暗く沈んだようになるのを防ぐのに有効な方法です。


全体に色が置かれた段階です。

この後、全体の明暗関係を調整しながら描き込んでいきました。

















青いピッチャーのある静物 (F6号)





















週1回(2時間半)の受講で約4ヶ月かかって仕上がりました。
時間はかかりましたが、大変完成度の高い作品になりました。初めての彩色した油絵としてはこの位描き込んであると作者の満足感も高いと思います。しっかりとしたマチエールに絵具の発色も大変綺麗です。ただ、個々のモチーフが若干置かれている空間から独立して切り離されているように見えます。コントラストの抑制やモチーフ相互の色の響き合いをいかに作るかが次の作品の課題となるでしょう。