2017年4月9日日曜日

風景スケッチのための画材収納ボックス

今回は野外での風景制作やスケッチに便利な道具を紹介します。

左から0号、サムホール、4号のスケッチボックス。
右がイーゼルボックス
桜の咲く季節になると、外に出て絵を描きたくなる方も多いと思います。でも油絵用具を一式持っていくのは、なかなか骨の折れることです。

そこでコンパクトにまとめて携帯しやすくしたのが、右のようなボックスです。

その原型は、西洋で野外制作が盛んに行われるようになった19世紀までさかのぼることができます。



左がサムホールサイズ(文房堂製)、右が0号(イタリア製)のスケッチボックスです。
開くと上部にスケッチ板が挿めて、下部に絵具や筆などが入れられ、スライド式の蓋がパレットになります。



箱の裏に穴が開いていて、パレットを持つように親指を入れると、そのまま手に持って描くことができます。




ちなみに「サムホール」というキャンバスのサイズの語源は、このスケッチボックスに開いた穴から来ています。









これは1900年頃のルフラン社のカタログに載っていたものです。



旅行などに持って行くには、大変便利なボックスです。



これは4号サイズのスケッチボックス。

筆者がイタリア製の絵具箱を改造して作りました。この大きさになると手に持つのは無理なので、座って膝に置いて使います。


最後はイーゼル付きボックス(フランス、ジュリアン社製)

野外で腰を据えて制作するにはお薦めの逸品です。
ボックス部分は金属製で、筆も絵具もたっぷり収納できます。イーゼル部分はスライド式で高さが自在に調節でき、横向きなら30号まで置くことが可能です。しかも安定性抜群です。ただ、絵具などをいっぱいに詰め込むとかなりの重量になり、専用のベルトで背負っても長距離を歩くのは大変です。





この絵は、クールベ作の「こんにちはクールベさん」(1854年)です。

右側の人物がクールベ自身で、背負っているのがこのボックスと言われています。

この頃になると画家が自然を前にして描くことも多くなり、そのための用具が発達したと考えられます。




今では旅行先で写真を撮っておいて、家に帰って油絵にすることもできますが、自然の光や空気を感じながら、変化していく風景を捉えようと格闘するのは、絵を描く大きな喜びの1つだと思います。





2017年3月31日金曜日

油絵スケッチ


今回はキャンバスペーパーを使った、気軽に描ける油絵スケッチを紹介します。

制作は自宅でバラ園をされているK.iさんがおこないました。アトリエラポルトではご自身で撮ってこられた写真から、自由な色遣いと構成でキャンバスペーパーにスケッチの練習をされています。




市販のキャンバスペーパーです。
左がミューズ社の「キャンバスペーパー」
右がアルシュ社の「オイル」
どちらも直接油絵具で描けます。

また厚手の水彩用紙や厚紙に膠引きすれば自作も可能です。




ロートレック【黒いボアの女】
厚紙に油彩


もともと紙と油絵具は相性がよく、ロートレックやヴュイヤールなどが好んで使用しています。

ただし必ず膠引きして油の浸透を防ぐことと、長期間の耐久性を得るには、板やキャンバスに裏打ちする必要があります。

今回のK.kさんの制作は、油絵スケッチの練習としてキャンバスペーパーを使って頂いてます。


「青いバラの小路」
F6サイズのキャンバスペーパーに油彩



「バラ園入口」
F6サイズのキャンバスペーパーに油彩



「赤いバラの小路」
F6サイズのキャンバスペーパーに油彩



「庭の入口」
F6サイズのキャンバスペーパーに油彩




うまくいったスケッチは、デッサン用の額に広めのマットを付けて額装してみるのも良いでしょう。キャンバスの額装とは趣きの異なる、どこにでも掛けられそうな素敵な作品になったと思います。







2017年3月22日水曜日

暖色と寒色によるグリザイユ  1

今回は、暖色の絵具と寒色の絵具を使った石膏像のグリザイユを紹介します。描き手は、すでに画家として活躍中のH.mさんです。

この試みは、アトリエラポルトで参考にしているアンリ・バルツ著「デッサンの文法」の色彩調和の原理"ニュアンスのシンホニー”からの応用です。(Henry Balth:Grammaire du dessin)


本文を要約すると、
「色相は1色だけに限定されるが、そこには多くのニュアンスが与えられる。際立った色のコントラストはないが、隣り合う色相の控えめな干渉によって作らえる。効果は単純なモノクロームのグリザイユよりも、より豊かになる。」

この練習にはいく通りもの方法がありますが、今回は暖色の絵具(レッドオーカーまたはバーントシェンナ)と寒色の絵具(コバルトブルーまたはウルトラマリン)を使った最も寒暖の差のでる(ニュアンスの幅のでる)やり方です。


左はレッドオーカーとコバルトブルーの混色にシルバーホワイトを加えて作ったグラデーションです。絵具の混色では、中央のグレーのように混ぜ方によってニュートラルグレーを作ることができます。
このグレーを基準に、光の当たっている部分や手前の部分は左側の暖かいグレーで、影や奥の部分は右側の冷たいグレーを使うことで空間やボリュームがより強調されると共に、光の輝きや空気感も出しやすくなります。






色による表現を色相の違いや補色から言うことはあっても、暖色と寒色で考えることは少ないと思います。
しかし、明度の変化を寒暖に置き換えて考えてみることは、現実を絵に転換するには何が重要か、明度と色の相対的な関係とは何か、を学ぶ上で重要です。
それは単に見た印象を描くのではない、絵画独自の表現方法を考えるきっかけになると思います。

今回の使用絵具
シルバーホワイト
バーントシェンナ
コバルトブルー

準備段階として、バーントシェンナとコバルトブルーを混色してニュートラルグレーを作ります。これを基準にして、暖かいグレー(暖色)を作るにはバーントシェンナ、冷たいグレー(寒色)を作るにはコバルトブルーを加えます。

キャンバスにデッサンをした後、背景から始めます。この時のグレー(冷た目)を画面上での相対的な寒暖の基準にして描き進めました。


2017年2月25日土曜日

石膏デッサン  省略と強調


今回は金曜日の夜間に受講されているC.eさんが描いた「ラファエル少女」(アンリ・グレベール作 Henri Grebert 1855~1941)の石膏デッサンを紹介します。

すでにイラストレーターとしてご活躍のC.eさんには、特に「省略と強調」をテーマにアドバイスいたしました。






3次元の世界を2次元の平面に置き換えるのは、本来不可能の事で、必然的にある部分を省略したり、強調して、平面の上でより効果的な表現になるようにしなければなりません。






このデッサンでは背景を省略しているので、その分影の領域を明瞭にして強調し、石膏の白さを表現するようにアドバイスしました。また、明部のグレデーションはできる限り省略して、モデリングによりボリュームを強調するように勧めました。












ラファエル少女(530×450) 画用紙に鉛筆





約20時間かけて仕上がりました。

単に形が良く取れたデッサンと言うだけではなく「美しいデッサン」になっていると思います。
それは明暗の配置や分量、正確な形態の把握と適切なモデリングからくるものです。


デッサンの基礎練習は、写真のような対象の引き写しではなく、平面(2次元)に適した方法と手段で対象を再現するところにあります。そのためには、作者が造形的意思を持って複雑で多様な現実の対象(3次元)から必要な要素を選び出し、「省略や強調」を行うことが大切です。


2017年1月16日月曜日

明暗法を追求する

画家を目指して修行中のK.hさんの最新作を紹介します。
現在K.hさんは、明暗法による形体と空間のリアルな表現のエチュードを繰り返し試みています。


明暗法(Clair-obscur)は、レオナルド・ダ・ヴィンチが遠近法に明暗の変化を論理的に結びつけたことによって確立され、西洋絵画のリアルな表現の基になったものです。

今回の作品は、暗い背景に明るいピンク色のバラというコントラストの強い設定で、銀色のゴブレットが双方つなぐ重要な脇役という構成になっています。


バーントアンバーで背景の明度から決めていきました。

技法的にはダイレクトペインティングの手法で描いています。キャンバスはクレサン社製の66番中目をそのまま使っています。










背景とテーマのバラの明度関係がほぼ決定された段階です。このコントラストをベースにテーブル、そしてゴブレットの明度を考えていきました。












バラ F4号



アトリエラポルトに通われて約2年。それまで油絵をまったく描いた事のなかったK.hさんですが、勉強の成果が良く表れた作品になったと思います。

シンプルな構図ですが、その分作者の意図が明快に感じられます。特にモチーフに当たった光の輝きの表現は特筆すべき点です。

ただ中目のキャンバスに直接描いている為、背景など暗くて絵具層の薄い部分が、布目の凹凸で照明が乱反射して見づらくなってしまってます。

地塗りをして布目を潰すなど、マチエールの工夫が加わると一層良くなるでしょう。








*注釈
明暗法=キアロスクーロ:CHIAROSCURO(伊)、クレールオブスキュール:CLAIR-OBSCUR(仏)

グリザイユのように完全に明暗だけの単色の絵画や版画を言い表す場合もあるが、ここではド・ピール(R.DE.PILES,Cours de la peinture par principes.1708)の定義に基づいた明暗法を指す。

「目に安らぎと満足を与え、またそれと共に全体の効果を高める目的で、絵の上に現れるべき光と影を、有効に配置する技術のこと。」

「明」(clair)という言葉が、光に直接さらされたものばかりでなく、本来の性質からして明るい色すべてを意味していること、また「暗」(obscur)という言葉が、本来的に褐色(暗色)を帯びたすべての色、例えば暗いビロードや茶色の織物、暗い馬、黒光りする甲冑など、どんな光のもとでも本来誰の目にも明らかな暗さを保っている物も意味していることを知る必要がある。」

以上を踏まえた上で、遠近法に従った適切な距離感(奥行き)を明暗のコントラストと配置によって対象に与えること。

2016年12月9日金曜日

キューピットを描く

今回は、アトリエラポルトで学ばれてから3~4か月目の3人の受講生が描いたキューピットの石膏デッサンを紹介します。

アトリエラポルトでは、初心者の方には遠近法の説明をした後、幾何形体→白いオブジェ→部分像→石膏像と進んで頂いてますが、その最初の石膏像にキューピットがよく選ばれます。

















O.Tさんは20代の男性で、ブグローのような写実的な油絵を目指してデッサンを学ばれています。







キューピット (530×410) 画用紙に鉛筆



















C.Eさんは、これまではイラストを描いてらしたそうで、ドレやミュシャ、ロックウエルやエンデがお好きな女性の方です。
基礎としてのデッサンの必要性を感じて受講されています。






キューピット (530×410) 画用紙に鉛筆




















A.Cさんは、アトリエラポルトの近くの会社にお勤めのOLさんです。頭に浮かぶイメージを自由に紙の上に表現できるようになりたくて、デッサンを始めたそうです。





キューピット (530×330) 画用紙に鉛筆



それぞれの目指す所は違っても、基礎としてのデッサンを大切に考えいる点では一致しています。
アトリエラポルトでは、多様な目的に応用できるようなデッサンの学び方を、西洋の伝統的な(アカデミックな)教育方法を参考にしておこなっています。

まだデッサンを始めたばかりの方々ですが、このような練習を積み重ねていくことが、いずれはそれぞれの創作に役立つのではないかと考えています。




2016年11月21日月曜日

19世紀のデッサンから描き方を探る

今回は、アトリエラポルト所蔵の19世紀(1880年代)の人体デッサンからその描き方を探ります。
作者不明で、購入した時の状況からフランスの美術学校の学生が描いたものと推測しています。



デッサンに対して、上部が台紙、下部が白い紙
デッサンの明度が分って頂ければ幸いです。



紙の周囲が傷んでいるので正確なサイズとは言えませんが、約660㎝×450㎝のグレーの中間色の紙に、木炭と白チョークで描かれています。

デッサンは未完成ですが、その分描き方の工程がよく分かり、貴重な資料となっています。
















使われている紙は、現在の木炭紙より表面は滑らかです。
それでいて木炭はよく付いています。

ことによると原料が木材パルプではなく、綿(ボロ布)かもしれません。

















最初に未完成と書きましたが、上半身はほぼ出来上がっています。

木炭で影を、白チョークで光の当たっている部分を描いているのが分かります。



現実の光と影の印象を描いているというよりも、徹底的に筋肉や骨など、人体の解剖学に基づいた正確な形を描き表そうとしています。






左は、以前紹介したシャルル・バルグの手本集からの一枚ですが、形の捉え方に共通性を感じます。






下半身は木炭のみで、白チョークは使っていない状態で残されています。

木炭を擦筆のようなもので擦りながら、丁寧にモデリングしているのが分かります。



つま先は、まだモデリングもしていない段階で、線だけで形を表しています。


以上のことから、最初に線で形を捉えた後、木炭を擦りつけながら人体のモデリングと背景を描き、最後に白チョークで明部をボリュームがでるように描き起こしたと考えられます。

また、輪郭が直線的で、形に沿って明確に変化しているのが特徴です。



典型的なアカデミックなデッサンですが、そこに感じるリアリティは、「存在する形」を正確に表すことによって生まれたもので、現象的な光と影の描写や写真のリアリティとは異なるものです。

名も知れぬ学生の描いたデッサンですが、西洋絵画の造形方法の基本を知る手掛かりとなっています。