2013年11月5日火曜日

本の紹介 10 黒田重太郎著 「洋画鑑賞十二講」

今回紹介する本は、黒田重太郎著 「洋画鑑賞十二講」(昭和8年 立命館出版部)です。

黒田重太郎(1887~1970)は、浅井忠・鹿子木孟郎に学んだ後、大正時代に渡仏して、アンドレ・ロート(Andre Lhote 1885-1962)に師事した貴重な経歴を持つ画家です。画家としての活躍以外に多くの著作を発表して、西洋絵画の研究でも優れた業績を残しました。(当ホームページの参考文献を参照)


その中でも、鍋井克之との共著「洋画メチエー全科の研究」(昭和3年)は、その時点での日本人が知り得た西洋絵画ついての知識の集大成と言える本です。この大著ついては、またの機会に譲って、今回はそれより読みやすいのにあまり知られていない「洋画鑑賞十二講」を取り上げます。


「洋画鑑賞十二講」は昭和8年の出版で、画家の専門書と言うよりも、広く一般の人達に絵の見方を解説しようとした本です。それでも内容はフランス流の極めて論理的な方法で説明されていて、アンドレ・ロートから学んだ黒田だから書けたと言えるでしょう。


明暗について
目次は、
序講:洋画の鑑賞
第二講:形式と技法
第三講:形式と技法(承前)
第四講:技巧 形
第五講:技巧 明暗
第六講:技巧 色彩
第七講:技巧 構図
弟八講:表現 空間と運動
弟九講:表現 主題
弟十講:様式
弟十一講:鑑賞の実際
結講:洋画と現代日本人の生活
となっています。

プロポーションについて
線の種類について





セザンヌの構図について
アングルのデッサンについて
上図のデッサンの分析
アンドレ・ロートの著作の一部


アンドレ・ロート(Andre Lhote 1885-1962)は、日本ではあまり知られていませんが、フランスではキュビズムの画家として高く評価されています。また、理論家であったロートは、多くの著作を残しました。特にセザンヌの絵に対する分析では、セザンヌの歴史的評価を確固としたものにし、多くの画家に影響を与えました。  
黒田重太郎


黒田は、1921年の2度目のフランス滞在の時にモンパルナスあったロートのアトリエに入り、その厳格な方法論を学びました。語学が堪能だった黒田は、その教えを理解した唯一の日本人だったと思います。黒田の本を読むと、ロートの本からの影響が随所に見受けられます。




アンドレ・ロート





黒田には、他に「構図の研究」「素描・色彩の研究」など、「洋画鑑賞十二講」の内容の一部を、より掘り下げて解説した本があります。興味が湧いたら読んでみるとよい本です。
黒田重太郎
アンドレ・ロート
今では黒田やロートの作品は、一見時代遅れの具象絵画のように感じられますが、この本を読むと、西洋絵画の古典や伝統に通じていることが分かります。西洋絵画の造形方法に関心のある方にはお薦めの一冊です。


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