2023年12月3日日曜日

19世紀の肖像画の修復 3

補筆(La retouche)に入ります。
ニスを取ると欠損箇所やヒビ割れが目立ったり、過去におこなわれたリタッチが取れたりします。それらの箇所を修復用の絵具で周囲の色に合わせるように補筆します。

補筆の際には必ず次のことを守らなくてはいけません。
・いつでも原画を傷める事なく除去できる絵具を使う。
・オリジナルの絵具に、はみ出さないようにする。


絵具層が基底材から剥がれ落ちてる場合は、パテで欠損部分を埋めて絵具層の高さに合わせてから補筆しますが、今回の絵ではそのような箇所は過去の修復で直してあり、擦れやヒビ割れで絵具が取れた箇所だけを直接補筆して目立たなくしました。

補筆による色合わせは、最初に水彩絵具でおこないます。



3原色に白(定着を高めるためにアクリルガッシュの白を少量使う)を加えて、明るめに下色を作ります。



補筆箇所

水彩絵具で下色を塗ったところ。


この上に修復用の絵具(マイメリ社のレスタウロ)で周囲の色と合わせます。
レスタウロ絵具(Restauro)はアルコールで溶かしたパラロイドを溶剤とする樹脂絵具で、油絵具と同じようなツヤと透明感を再現できます。色数も豊富でオリジナルの絵具に近い色を混色して合わせていきます。


髪の部分の補筆が終わったところ。


続いてひび割れの補筆です。


補筆前

補筆後

最後に溶剤では取れなかった筆触の凹みに溜まって黒くなったニスを、特殊な針で掻き取りました。


つづく


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