2012年5月25日金曜日

古典絵画をめざして 3

S君の静物画もいよいよ完成です。





全体に一通り絵具がのったら、細部を描き込んでいきます。








どこまで細密に描写するかは、作者の表現の領域ですが、古典の名画を見ると細部は、筆触や色のニュアンスなどで巧みに「暗示」させています。離れて見ると非常に精密に描かれている絵が,近くで見ると意外にあっさり描いているので、驚くことがよくあります。



部分を描き込み過ぎて、全体のバランスが崩れないように注意が必要です。










最後にハイライトを加えて、光と質感を強調します。






途中で休んだ日もありましたが、週1回のペースで半年以上かかって完成です。(ちょっと時間がかかり過ぎですが・・・) 初めて試みた技法だったので、戸惑うこともあったと思いますが、非常に完成度の高い作品になりました。次回はもっと短期間で作品が仕上がるといいですね。楽しみにしています。


2012年5月7日月曜日

色のエスキース

色の配置や色調を、キャンバス上で試行錯誤しているうちに色が濁ってきて、どうにもならなくなった経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

そのような失敗をしないためにも、油絵の制作に入る前に、色のエスキースを作ることをお奨めします。











1.三原色を使って
色のエスキースに使う基底材は、キャンバスペーパーか、ベニヤ板や厚紙にジエッソで地塗りしたものが、気軽に使えてよいでしょう。サイズも小さい方が、短時間で制作できる上に、全体の配色や色調もよくわかります。


右のエスキースは、キャンバスペーパーに油絵具で描いたもので、大きさは28cm×21cmです。










2.スペクトルの色合いに近い絵具をつかて

細部にこだわらずに、大きな色の形の組み合わせとバランスを考えます。



彩度の高い色を使うときは、反対色どうしを結びつける中間のトーンの決定が重要です。












色の扱いは、とかく作者の感覚に委ねられがちです。(きれいな色で描けないのは、色彩感覚が悪いからだと思い込んでいる人も少なくないのではないでしょうか? ) でも、色の調和や絵具の発色についての知識があれば、誰でも美しい色彩の油絵を描くことができます。それらのことを学んだ上で、何種類かのエスキースを作って、自分の色を探していくと良いと思います。

2012年4月20日金曜日

石膏像をグリザイユで描く

T君が、サイト・サイズ法で石膏像のグリザイユに挑戦しました。




キャンバスに直接木炭でデッサン。























使用絵具:
シルバーホワイト、アイボリーブラック、ローアンバー


サイト・サイズ法で、常に対象を見比べながら進めて行きます。 (サイト・サイズ法については、昨年7月のブログをご覧下さい)












シルバーホワイトとアイボリーブラックをベースに描いていきます。

この時注意したいのは、白の油絵具は混色する相手の絵具を明るくしますが、色味を冷たくします。暖かい光で自然なモデリングを感じさせるために、ここでは少量のローアンバーを明部に加えています。












細部に囚われずに、大きな形と陰影を捉えています。




その後で、細部の形を加えていきます。










完成 (P12号)



初めての丸彫り石膏像のグリザイユでしたが、実に見事な出来栄えです。筆触や絵具の厚みの表現も効果的です。



2012年4月6日金曜日

印象派の技法を取り入れて

印象派の技法を取り入れて、風景画の制作を試みているNさんの作品を紹介します。




女神湖 M12号




八ヶ岳 M12号





妙義山 F15号




印象派のイメージは、一般的に「見た印象をすばやくスケッチ風に捉えたもの」と考えられがちですが、モネの「積み藁」や「ルーアン大聖堂」の連作など、時間をかけて入念に絵具が重ねられている作品も少なくありません。アトリエでじっくりと構図や色の組み合わせを考えながら、自分のイメージする色合いに近づけていくのも楽しいものです。







 使用した絵具:
パレットには、スペクトル(虹の色)にできるだけ近い絵具を選んで並べています。

レモンイエロー、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド、ローズマダー、コバルトバイオレッド、ウルトラマリン、コバルトブルー、セルリアンブルー、ビリジャン、カドミウムグリーンなど

これらの絵具にあらかじめ白を加えて、明るい系列のトーンを作っておくと作業がしやすくなります。

2012年3月30日金曜日

石膏デッサンを極める

すでに画家として活躍しているHさんは、石膏デッサンを極めようと、ホーマー像にチャレンジしました。


















ホーマー胸像(650×500) 画用紙に鉛筆

約15時間かかって完成しました。途中でモデリングを強く描き過ぎて明部が暗くなったり、反射光を明るく扱い過ぎてボリュームがなくなったりしましたが、最後は完成度の高い素晴らしいに石膏デッサンに仕上がりました。



























背景を描かないデッサンでは、背景となる紙の白よりも、石膏を白く明るく感じさせないといけません。 ここに、現実の引き写しだけでは成り立たない、絵の本質的な問題の一端が表れます。暗い領域で囲まれた中は、外側より明るく感じるという視覚認識の性質や、ハーフトーンやモデリングをよりデリケートに扱うなどの造形的思考が必要となります。写実的な絵と写真との境が曖昧になってしまった昨今ですが、ラファエロやアングルなどのデッサンに代表されるような古典絵画のリアリティの背景には、さなざまな画家の造形上の秘密がかくされています。石膏デッサンは、そのようなことを学ぶにも良い方法だと思います。

2012年3月16日金曜日

油絵の簡単な洗浄方法

古い絵や壁に掛けっぱなしの油絵の簡単な洗浄方法を紹介します。
ただし、くれぐれも注意して頂きたいのは、洗浄したい絵にしっかりとニスが塗られていることが前提条件です。ニスの塗られていない絵に、下記の方法で洗浄すると、汚れが絵具層に浸み込んでしまい取り返しのつかない事態になりかねません。



用意するもの:

洗浄液(精製水に濃度28%のアンモニアを2%加えたもの)
脱脂綿、
細い棒(ここでは編み棒を使用)






















柔らかい刷毛で画面上のほこりを掃った後、綿棒に洗浄液を含ませ(つけ過ぎないように)、目立たない隅の方から慎重に始めます。


綿棒は、円を描くように動かし、脱脂綿が汚れたらすぐに取り換えるようにして下さい。


一ヶ所を時間をかけてしつこく洗うことを避けて、水分を飛ばしながら進めていきます。


















今回使用した洗浄液は、最も弱い洗浄液ですが、それでも稀に絵具がとれる状態の油絵もあるので、汚れの付いた脱脂綿を常にチェックして下さい。 もし絵具の色がついたと思ったらすぐに洗浄を中止します。

また、凸凹したマチエールの絵や、ひびの入った絵は、絵具が脱脂綿に引っかかって取れてしまう恐れがあるので注意が必要です。

















洗浄した部分です。
























洗浄が終わった絵。






ニスを取っていないので黄ばみは残りますが、全体的に明るくなり、細部の色のニュアンスが表れました。

2012年3月2日金曜日

古典絵画をめざして 2

古典技法に憧れて描き始めた静物画も、ようやく彩色の段階に入りました。

 背景の色が決まったら、中央のモチーフから描いていきます。全体的に色を置きながら徐々に仕上げていく方法もありますが、週1回のS君のペースでは、下の層が乾いてしまい、生乾きで溶け込ませながら塗り重ねていく古典技法には不都合なので、部分的に仕上げていく方法を取りました。














使用絵具は、シルバーホワイト、イエローオーカー、レッドオーカー、バーミリオン、ランプブラック、でこれらの絵具は、昔Verdaccio と呼ばれていた(時代によって絵具の種類は多少異なりますが)基本色です。これに状況に合わせて好みの色を加えていきます。
影は、バリュウムイエロー、マダーレーキー、ウルトラマリン、スティルドガランの混色で作ります。













今回は、レモンの鮮やかな黄色をだすためにビスマスイエローを、ぶどうの緑をだすためにヴィリジャンを加えました。