その中でも伊牟田氏は、この本で自らの制作過程を、他に先駆けて公開した。アプレブランを使った油性地塗りの方法をはじめ、エボーシュから仕上げまでを連続写真で追いながら、分かりやすく解説されている。
特に、前回で紹介したラングレ本の処方を参考にした、樹脂の使用による生乾き状態での塗り重ねの効果を、自らの作品で示した点は重要である。 日本では明治時代中期以降、印象派の技法が主流となり、長らく樹脂の使用を避ける傾向にあった。その影響か日本で出版された技法書には、樹脂の使用方法と効果について具体的に示したものがなかった。その意味からすると、日本人の書いた記念すべき技法書といえるだろう。
右の絵は、伊牟田氏の1972年の作品。
40年近く経った現在でも、ひび割れ・剥落などの損傷もなく、ツヤ引けやツヤむらのない均一な光沢の中に、素晴らしい発色を保っている。伊牟田氏の技法の確かさと、樹脂の有用性を証明している。
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