2011年9月30日金曜日

ポール・セルジエの色彩論によって 3


今回から、セルジエの色彩論を応用した制作の過程を紹介していきます。


キャンバスと同じサイズの画用紙にデッサンを描き、トレーシングペーパーを使ってキャンバスに転写する。




転写したデッサンを、溶き油に少量の絵具をまぜてなぞりながら定着させる。










モノトーンで、明暗の組み合わせとバランスを考えながら、陰影をつける。












空から色を着け始める。 寒色の絵具と暖色の絵具が混ざらないように、点描のように絵具を置いていく。

2011年9月21日水曜日

水性の地塗りを求めて 2

今回は、実際の作業を説明します。


1.湯煎して溶かした膠を、温かいうちにボードの両面に塗る。














2.乾かしてから、画面となる側に再度膠を塗る。
乾かないうちに、ボードの周囲より3センチほど大きく切ったハトロン紙にも膠を塗り、気泡が入らないように手のひらで、空気を抜きながら慎重に腹合わせる。





3.再び乾かし、周囲にはみ出たハトロン紙をカッターで切り取ってから、100ccの膠水に対して40gの白亜を加えてよく混ぜた地塗り塗料を、刷毛で素早く塗る。









左:2度塗り  右:4度塗り
4.希望の白さになるまで、「乾かして塗る」を繰り返す。より早く白くしたい時には、白亜にリトポンまたは亜鉛華を加えてもよい(50%)

2011年9月16日金曜日

水性の地塗りを求めて 1

  グリザイユを始めたTくんは、市販のキャンバスでは思うような塗り重ねができなかったので、水性の地塗りを一緒に作ることにしました。

市販の油性キャンバスは、ダイレクトペインティングや古典絵画などのように、油絵具を生乾き状態で塗り重ねていく技法では、絵具の油の吸収性が弱く、樹脂を加えるか、ある程度乾かないと、下の絵具が動いて塗り重ねができません。その点、水性の地塗りは油を吸収し絵具が固くなり(乾燥はしていませんが)、すぐに塗り重ねが可能な状態になります。

水性の地塗りには、さまざま方法がありますが、なかでもグザビエ・ド・ラングレが薦めている白亜(ブラン・ド・ムードン)と兎の膠のよる処方は、油絵具との相性もよく、理想的な地塗りといえるでしょう。ただし、キャンバスなど布製の柔らかく収縮のしやすい基底材は、ひび割れや剥離を起こす原因となるので、木製の硬質な基底材が必要です。

白亜と膠水(10%)
今回は、10ミリ厚のMDFボードに、ラングレの処方どおりの地塗りを施しました。MDFボードは、木質要素が小さい為、きめが細かく、薄い地塗りでも平滑な画面を得ることができます。反面、水分に弱く、一度反ると元に戻らないので、10㎜厚で4号程度が限度です。


用意するもの
・兎膠(トタン膠)または皮膠  10g
・水                100cc
・白亜                40g
・MDボード(10㎜厚)F4号サイズ
・筋入りハトロン紙


板状の皮膠




*板状の膠は、砕いて水に一昼夜つけた後、湯煎して溶かす。


2011年9月2日金曜日

ポール セルジエの色彩論よって 2

セルジエの指定した絵具は下記のとおりです。

セルジエのパレット
暖色 Chrome1(クロームイエロー)
Chrome2(クロームオレンジ)
Chrome3(クロームレッド)
Vermillom
Laque de garance foncée
Terre d’ombre brulée
*暖色のグレー Antimoine + Terre d’ombre bruléé

寒色 Strontiane 
Strontiane + Cobalt 1
Strontiane + Cobalt 2
Cobalt
Bleu de Prusse
Bleu de Prusse + Laque garance foncée
*寒色のグレー Blanc + Noir + Strontiane

また、パレットは、暖色用と寒色用を用意して、お互いが混ざらないように注意をしています。


今回は、Yさんがすでにお持ちの絵具を使い、クロームからカドミウムに、緑色はカドミウムとビリジャン、青色はウルトラマリンに代え、コバルトヴァイオレットを追加しています。 パレットを、真中から左右に暖色と寒色に分けて絵具を置くことにしました。


テーマは、Yさんがプラハに旅行された時の風景です。


2011年8月27日土曜日

ポール・セルジエの色彩論によって 1

 ナビ派の画家ポール・セルジエは、日本ではあまり知られていませんが、ゴーギャンから直接影響を受け、ナビ派の方法論を確立した画家としてフランスでは高く評価されています。

 特にセルジエの著書 「ABC de la peinture」(1921年) は、ナビ派の造形理論を知る上で重要な本の1つです。今回Yさんには、この本の第3版(1950年)で,セルジエが友人に宛てた手紙の中で述べている色彩論を、応用して描いてもらうことにました。


セルジエの色彩論のポイントは、絵具を寒色と暖色に分け、それぞれに寒色のグレー(ストロンチウム・イエローと黒と白)と暖色のグレー(アンチモン・イエローとバーントアンバー)を混ぜることによって、濁りのない(発色のよい)中間色を作ることが出来ると考えたところにあります。


これは、20世紀前後の画家達から、反対色(補色など)をパレット上で混ぜ合わせて、中間色作ることが多くなった結果、発色の悪いくすんだ絵が増えてしまったことへの反省があると考えられます。








セルジエの方法は、Yさんにとっても、私たちにとっても未知の部分が多く、はたしてどんな結果になるか、随時制作過程を報告していきます。

2011年8月19日金曜日

本の紹介 3

「絵画材料辞典」  R.J.ゲッテンス,G.L.スタウト共著  森田恒之訳  美術出版社 1973年



右が原本、左が翻訳本
これは、1942年にアメリカで出版された R.J.Gettens と G.L.Stout による 「Painting Materials」 の全訳本である。

原本が出てから31年たっての翻訳であったが、当時日本にこのような絵に関する辞典はなく、またこれ以降も現在に至るまでの38年間、「絵画材料辞典」より詳しい内容の材料辞典は出版されていない。

この間西洋では、フランスだけでも、簡潔な内容のものから、最新の研究成果を踏まえた詳しい内容のものまで複数出版されている。西洋と日本の絵のおかれている状況の違いを感じざるえない。
1980年以降フランスで出版された「絵画材料辞典」に類する本の一例


とはいえ、「絵画材料辞典」は、現在においてもとても貴重な本である。森田氏の翻訳は読みやすく、単なる画材の説明書ではなく、絵の材料をとおしてみる文化史ともいえる内容で、読み物としてもおもしろい辞典である。1999年には再販もされてる。絵を描く人の「座右の書」といえるだろう。

2011年8月5日金曜日

線から明暗、そして色彩へ

外国でも絵を習われた経験をお持ちのEさんは、これまでに色彩感覚のすぐれた作品を描かれてきました。今回は、明暗法の土台の上に彩色を施すことによって、より一層の空間とリアリティの再現に挑戦されました。









 1.入念に構図を練った後、スケッチブックにキャンバスと同じサイズでデッサンをする。


2.キャンバスにデッサンを、トレーシングペーパーを使って転写し、テールドカッセルで定着させる。









3.テールドカッセルで陰影をつけた後、シルバーホワイトで明部を描き起こす。モチーフをよく見ながら、出来る限り明暗によって、形のボリュームと空間を再現する。










4.基本色のシルバーホワイト、イエローオーカー、レッドオーカー、バーミリオン、ランプブラックで明部の色を置いていく。 暗部は、レモンイエロー、ローズマダー、ウルトラマリン、テールドカッセルの混色で作る。




5、基本色で、どうしても再現できない色調には、そのつど新たに絵具を加えていく。





完成: 週3回で約3ヶ月かけて出来上がりました。明暗と彩色を分けておこなうこのやり方は、時間はかかりますが、確実に仕上がるすぐれた方法です。 Eさんには、初めての体験でしたが、忍耐強く制作に取り組まれた結果、油絵具の特徴を生かした深みのある空間と、輝くような発色の絵になりました。今後の制作のベースになれば幸いです。