2017年11月8日水曜日

印象派の技法から自己の作風へ



今回は印象派の技法を取り入れて風景画を制作されている、N.sさんの最近の作品を紹介します。

教室ではどうしても写真を使っての制作になるので、写真に捕らわれない絵になるようにと、印象派の用いたスペクトルの色による並置混合をお勧めし、それを実践されています。





残雪(M12号)



早春のまだ雪の残る八ヶ岳付近の風景。

針葉樹の暗い形と雪の白い形がバランス良く配置されています。

近づいて見ると、印象派の手法を使っているのが分かります。

このように普通なら見過ごしてしまいそうな風景から、造形的要素を引き出して絵にするところにN.sさんのオリジナリティーを感じます。










ゲレンデ(F10号)


これも「ゲレンデでスキーをしているところ」というテーマを越えて、明るい形と暗い形の配置のおもしろさに目のいく作品です。

惜しむらくは、緑の大地は絵具の並置によりニュアンス豊かに表現されているのですが、雪や空の色彩的変化が単調です。それにスキーヤーが遠近法に合っていれば、もっと良い作品になるでしょう。







街角(34㎝×27㎝)キャンバスペーパーに油彩




最後は、キャンバスペーパーにスケッチ風に描いた作品。
新聞を読んでいるのは自画像でしょうか?  
これも垂直水平の画面分割に工夫を感じます。
デッサン額にマットを切って入れれば立派な作品です。



2017年10月14日土曜日

本の紹介 22 形態学ノート

今回の本の紹介は、今年(2017年)の6月に青幻舎より翻訳出版された、アントワーヌ・バルジーニ著「アーティストのための形態学ノート」です。




原本は、2016年にフランスで出版された
“Le corps à nu. Antoine Barjini" です。





著者のバルジーニは、現在パリ国立高等装飾美術学校の講師を務め、従来の美術解剖学とは異なる形態学の視点から、観察に基づく人体デッサンの実践的方法を試みています。



美術解剖学を学んでも実際にモデルを前にすると、その知識が役に立たない事がよくあります。それは、男女の違いや体形の違いで骨や筋肉の現れ方が異なるからです。
バルジーニの斬新な試みは、個々の人体の表面の形(形態学)からその理由を論理的に説明している点です。
例えば右の写真は、体形の違いを脊椎のS字カーブの違いによる骨盤の傾きから説明しています。

本文は8つのレッスンからなっています。
Ⅰ.人体の特徴
Ⅱ.プロポーション
Ⅲ.骨盤
Ⅳ.下肢
Ⅴ.胴
Ⅵ.上肢
Ⅶ.背中・脊椎・首
Ⅷ.頭部
右のページはその中の「Ⅳ.下肢」の部分です。実例にあげたピカソの絵は、写実的な表現ではありませんが、4本の下肢の内側面と外側面の違いが、それぞれの角度から見事に描きだしていると説明しています。
「良い形とは何か?」「正確なデッサンとは何か?」を考える上での参考になると思います。





この写真は「Ⅵ.上肢」からで、体表の目印を示したものです。男女による表れ方の違いがよく分かります。従来の美術解剖学では理解し難かったところです。



肩の筋肉と上腕の説明では、表層の見えから筋肉の状態を解説しています。










このようなアプローチの仕方は、特にモデルを見て描く時には確かに実践的で理解し易い方法だと思います。参考図版や写真も美しく、読み物としても面白くできてます。人物を描く方にはお勧めの一冊です。



2017年10月7日土曜日

花三題

今回は花をテーマに連作されているM.aさんの作品を紹介します。


M.aさんは会社を定年退職された後、本格的に絵を学ばれました。アトリエラポルトには3年前より来て頂いてます。


ピンク色のトルコキキョウ(P8号)



紫色のトルコキキョウ(P8号)



白いトルコキキョウ(M8号) 



どの作品もキャンバスと同じサイズできっちりと鉛筆デッサンをしてから油彩に入っています。明暗の適度な整理と強調をおこなって、強い光と色のコントラストを感じさせる効果を生んでいます。直感的な印象を勢いのある筆遣いで捉えたり、写真を使って細密に描いた絵とは対極的な作風ですが、モチーフを見つめて「実感」を失わずに一筆一筆考えて制作されるM.aさんらしい魅力的な絵に仕上がっていると思います。


2017年9月26日火曜日

本の紹介 21  福田邦夫著「色彩調和の成立事情」

今回の本の紹介は、福田邦夫著「色彩調和の成立事情」です。32年前(1985年)に出版された本で、今では絶版でその存在を知る人も少ないと思います。


色の調和については、画家に限らず色を扱う仕事に携わる人なら関心がある事と思います。現在も多くの本が出版されていますが、この本ほど過去から現代までの色彩調和論の変遷を詳しくまとめたものはないと思います。

目次は次のようになっています。
Ⅰ章 配色のすべては誰にもわからない
Ⅱ章 「蓼くう虫も好きずき」
Ⅲ章 経験的評価のはじまり
Ⅳ章 音楽からの類推による色彩調和論
Ⅴ章 視覚的均衡の原理
Ⅵ章 現代における古典の再生
Ⅶ章 自然に学ぶ色調のグラデーション
Ⅷ章 配色により同時対比の法則
Ⅸ章 教養人の趣味と経験による選択基準
Ⅹ章 色彩調和法の日常生活への浸透
ⅩⅠ章 秩序の原理と色彩体系
ⅩⅡ章 調和は秩序に等しい
ⅩⅢ章 美術のための色彩体系と調和論
ⅩⅣ章 各人各様の色彩調和論
ⅩⅤ章 小さな論文の大きな反響
ⅩⅥ章 色彩調和の人民投票

その中からいくつかを取り上げてみます。


これは、現代色彩学の基を築いたニュートンの「光学」からの図です。
ニュートンはスペクトルを音階と同じ7つの色に分けることによって、音のハーモニーとの関連を探り、色彩調和論の最初の仮説を作りました。





アンリ・プファイファーの回転混色板を使った調和論の一例。








スーラなどの点描派の画家に大きな影響を与えたルードのコントラスト・ダイアグラム。




オストワルトの等色色相三角形とそれに基づく調和論。












戦後の日本の色彩理論のベースとなったマンセルの色立体。






イッテンの色彩調和論。



ムーン&スペンサーの色彩調和論からの図。

















色の配色の良し悪しは感覚的要素が強い上に、環境や時代によって変化します。
この本の著者である福田氏も、第Ⅰ章に20世紀の代表的な色彩研究者のジャッド(D.B.Judd 1900-1972)の文章から「色彩調和は、好き嫌いの問題であり、情緒反応は人によって異なり、また同一人物でも時によって異なる。」とする考えを引用しています。特に個性的な表現を求める絵画の世界では、色彩調和論に否定的な方もいると思います。

ところが福田氏はその後で、「欧米では色彩調和の認識は、伝統的に万人に共有されるべきものであって"色彩調和論"のように、三人称で記述され論じれれるのが通例になっている。」と書いています。そのような歴史がこの本を読むと良く分かりますし、各時代の色彩理論は、ドラクロワや印象派や点描派などの画家達の表現にも強く影響をあたえています。それらの事実を知ることは、絵の理解をより深いものにしてくれると思います。



2017年9月8日金曜日

初めての寒暖の効果を使ったグリザイユ

今回はデッサンの延長線上としてのグリザイユに、寒暖の効果を加えた制作を紹介します。
描き手のO.yさんは、アトリエラポルトに入る前までは絵を学ばれた経験はなく、カリキュラムに沿って幾何形体のデッサンから一歩ずつ進まれてきました。グリザイユは、今回が2作目です。


まずはキャンバスのサイズと同じ画用紙にデッサンをしました。練習の過程においては、存在する形を正確に描くことが基本です。絵具を使うとその点が疎かになりがちです。アトリエラポルトでは、できるだけきっちりとデッサンをした後、それをトレーシングペーパーでキャンバスに転写するように薦めています。

メジチ像(画用紙に鉛筆 F10号サイズ)


左側がブルーブラック、右側がアイボリーブラック



寒暖の効果を取り入れたグリザイユは、このブログで何度か取り上げた方法ですが、この作品では初めての方にやり易い絵具を選択しています。


使用絵具
シルバーホワイト
アイボリーブラック
ブルーブラック(ニュートン社)



最初に背景と石膏像の影をブルーブラックとシルバーホワイトで描いていきます。
石膏像の明部はアイボリーブラックとシルバーホワイトで描き起こします。

全体に明暗と寒暖の割り振りできたら、各部分のボリュームとその置かれている前後関係に従って、暖かいグレーと冷たいグレーを使い分けて表していきました。


メジチ石膏像のグリザイユ(P12号)

週1回1コマ(2.5時間)の受講で、デッサンから始めて約半年かけて仕上がりました。
油絵具を使っての2作目なので、まだ扱いに不慣れなところがありますが、急がず時間をかけて今の力を出し切った作品になっていると思います。

寒暖の効果を使ったグリザイユは、一種類の黒だけを使ったものより空間や光の表現の幅が広がります。また、デリケートな色合いの変化に対する感覚が磨かれて、それは多色で描く時にも生かせる色彩効果の基となることでしょう。

2017年8月26日土曜日

布のデッサン

今回は布を描いたデッサンを紹介します。


布だけをモチーフにしてデッサンをすることは、日本ではほとんど行われる事がありませんが、西洋では意外に古くからそのような作例が残されています。













その代表的な例が右のダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 1452-1519)のデッサンです。

このように人物画を描くためには服の皺の表現は重要で、布皺をデッサンすることでその法則や捉え方を練習することができます。





アトリエラポルトでは、独自に木綿の布を木工用ボンドを薄めた溶液で固めた布モチーフを作りました。


今回はイラストレーターのC.eさんがこれに初チャレンジしました。










布のデッサン (木炭紙大の画用紙に鉛筆) 



大変美しいデッサンに仕上がりました。布の厚みや柔らか、そこに当たる光の輝きも感じさせます。それは、的確な形のモデリングと明暗の配置、丁寧なハッチングによるパッサージュのデリケートな表現によります。一見リアルなデッサンに感じますが、写真と異なる絵画的な配慮の行き届いた作品になっていると思います。



2017年8月8日火曜日

アトリエの道具と画材 14 特注の筆

今回はアトリエラポルトで筆職人の方に特注して作って頂いた筆を紹介します。


古典絵画の人物の肌などの滑らかなモデリングは魅力的な上に神秘的なものです。

そこでいろいろな地塗りを試みたり、溶剤の配合を考えたり、筆触や絵具の盛り上がりをファンでぼかしたりと工夫されている方も多いと思います。

この度アトリエラポルトで作った筆は、そのような効果を得るために使われていた筆の一種です。昔の技法書や画材カタログには載っているのですが、現在日本では作られていない筆を再現したものです。




右の絵はダヴィッド(Jacques-Louis David 1748-1825)作の「レカミエ夫人」の部分ですが、未完成のため背景や腕などに筆触が残っています。それを見ると筆を押し付けたような点状のタッチなのが分かります。
これは今の一般的な毛先がまとまる筆では出し難いタッチです。












これが特注して作って頂いた筆ですが、逆に毛先がぼさぼさで垂直に立てて押すと開くようになってます。「引いて描く」のではなく「押して描く」「叩くように描く」筆なのです。














この筆を使い「押すように、叩くように」絵具を置いていくと、下地にしっかりと絵具が着く上に、塗り重ねながら滑らかなモデリングやぼかしの効果を得ることができます。その結果、抵抗感のあるしっかりしたマチエールと美しい発色が可能になります。




右は、明治時代の初期(10年頃)に作られた日本で最初の洋画材カタログの一部です。(絵具問屋村田宗清:2012年2月15日のブログ参照)
興味深い事にここに「打筆」という名前で同様の目的の筆が載っています。(多分イギリスからの輸入品だったのではないかと思います。)













今回作るにあたって参考にしたのはフランスのマネ社の筆です。昔と同じように軸受がひもで作られています。


試作品1


余談ですが、この筆が完成するまで約1年。試作を繰り返し職人さんが匙を投げかける寸前で出来上がりました。

試作品1:
見た目は良いが、押しても思うように毛が開かない。






試作品2

試作品2:
広がりやすくと思い先端を平らにしたら、かえって開かなくなってしまった。

試作品3

試作品3:
毛が偏らずに広がるようにと毛足を短くしたが効果なし。




結局油絵の歴史が浅く、過去に作ったり使ったりした経験がない物を作るのがいかに大変かが分かりました。






*現在この筆はアトリエラポルトの1階のさとうストアで販売中です。
10号:1,263円,12号:1,474円,16号:1,895円,(税込み)
3種類のみで、数に限りがありますので売り切れの際はご容赦下さい。