2018年6月25日月曜日

サイトサイズについて


今回はサイトサイズについて、その制作例を紹介しながら考えてみたいと思います。

制作者のY.mさんは、アトリエラポルトに来てから初めて絵を学ばた方です。会社勤めをされながら通われて約1年半が過ぎ、現在はサイトサイズでグリザイユを練習しています。





サイトサイズの方法については、すでに当ブログで説明していますので詳細は省きますが、その趣旨は「見比べて描く事」と言えるでしょう。写実的な絵のトレーニングとしては、初心者の方にも分かりやすく上達の早いやり方だと思います。

近年、シャルル・バルグの手本集が「ドローイングコース」という題名で翻訳出版されてから、日本でも知られるようになった方法です。





ジャック・サリー作 少女像
水彩紙に木炭  540×380


陰影をつけて、石膏像の形とそれが置かれている空間を再現する目的で描いたデッサンです。サイトサイズはこのような表現に向いています。

まず画材面から考えると、日本で広く使われているヤナギ木炭とMBM木炭紙は、このような濃く滑らかに陰影を追いながら細部を描き込んでいくデッサンには向きません。

クリ、ハン、ホウ、ミズキなどの硬目の木炭の使用と、目が細かくて木炭の定着の良い紙を探す必要があります。この作品では水彩紙を使いましたが、メーカーの使用目的に拘らずに、木炭に合った紙を探してみることをお勧めします。



制作にあたっての注意点は、サイトサイズは形や明暗を捉えやすいのですが、その分、単なる現実の引き写しになりがちです。クラシックなデッサンの目的は、あくまでも対象の正確な形とボリュームを表すことを前提としています。現象的な明暗を追うことで形が曖昧にならないように解剖学を踏まえた整理と選択が必要です。


例えば、左の拡大画像を見ると、暗い背景に接する光の当たった明るい輪郭側からも(頬やおでこなど)各形態のハイライトに向かってデリケートにモデリングされているのが分かります。(現実は暗い背景にスポットライトの強い光で輪郭が最も明るく感じます。)

また、影の中の反射光も実際より暗く抑えることで、ボリューム感が損なわれないように調整しています。








サイトサイズは現実に似せやすい反面、画面の形から幾何学的にモチーフの配置を考える「構図法」や「遠近法」の勉強には不向きです。

アトリエラポルトでは、基礎のデッサンを学ぶ際は、まず遠近法の理論に基づいた「枠」(窓)を使ったデッサンから始め、現実空間の明度(Valeur)を表す段階になってから、サイトサイズをおこなうようにしています。

次回は、Y.mさんのサイトサイズによる油彩グリザイユを紹介します。




2018年6月13日水曜日

油絵スケッチの練習


今回は油絵具によるスケッチ作品を紹介します。
作者のE.fさんは、アトリエラポルト創設以来のメンバーで、今までに様々な手法で制作されてきましたが、ここでは原点に戻って、花をモチーフにスケッチの連作を試みました。









使用する基底材は、キャンバスペーパーです。堅牢性はありませんが、コストが安くて、絵具のノリや発色も良いので、スケッチの練習には最適です。

通常は白い紙ですが、明るい部分に絵具を厚く置きやすくするために、中間色に塗っています。













右上の絵の部分

どのスケッチもA4サイズで、2時間から4時間位で描かれています。
枚数を重ねるごとに良くなっているのが分りますし、それとともに描く楽しさも増していったのではないかと思います。
スケッチは理性的(造形的)な判断と直感的な判断のせめぎ合いが面白いところです。
教える側は、あくまでもロジック優先でアドバイスしますが、作者本来の魅力とは、このようなスケッチの中にあるのかも知れません。



2018年5月9日水曜日

本の紹介 ウィリアム・ホガース著 「美の解析」




今回紹介する本は、ウィリアム・ホガース著「美の解析」(宮崎直子訳 中央公論美術出版 2007年)です。原本は、1753年にイギリスで出版されました。(The Analysis of Beauty by William Hogarth.)





筆者のウイリアム・ホガース(William Hogarth 1697-1764)は、18世紀イギリスを代表する画家で、連作版画や肖像画、特に風刺画で当時の社会に大きな影響を与えました。
その割に本書の評価は低く、現在に至っては知る人は僅かだと思います。

でも、美学書としての評価は低くても、絵を学ぶ上で誰しも考える「美しい形とは?」という疑問に、具体的な(造形的な)方法論を展開している点では貴重な本です。

目次は次のようになっています。

序文
第1章 合目的性について 「Fitness」
第2章 多様性について  「Variety」
第3章 単一性、規則性あるいは対称性について 「Regularity」
第4章 単純性あるいは明確な区別について 「Simplicity」
第5章 複雑性について「Intricacy」 
第6章 質量について 「Quantity」
第7章 線について
第8章 心地よい形態はどのような部分から、そしてどのように作られるのかについて
第9章 波打つ線による構成について
第10章 蛇状の線による構成について
第11章 比率について
第12章 光と影、及びこれらによって対象が目に説明される方法について
第13章 光、影、及び色彩に関する構成について
第14章 彩色について
第15章 顔について
第16章 姿勢について
第17章 動作について

そして、最後に本文の挿絵として、大判の銅版画が2枚付いてます。




例えば、右の2枚の部分画像は、主に7章から10章の内容の説明図になっています。

直線と曲線から始まり、その組み合わせで形が生まれる過程と構成方法が示されています。




ホガース美学の中心となる「美の線」すなわちS字曲線が示されています。




右下角には、15章の「顔について」の挿絵が載ってます。見ているだけでも風刺画が得意だったホガースを彷彿とさせます。









2枚目の版画は、主に12章から17章の内容の説明図になってます。

右のパレットは、14章の「彩色について」の挿絵。赤・黄・青の3原色に緑と紫を加えた5色のグラデーションが示されています。







このような線・明暗・色彩などの具体的な造形要素から「美の解析」を行うアプローチは、日本では馴染みの薄いものかも知れません。しかし、同じような「美」の分析方法は、西洋では古くはデューラやロマッツォの著書から20世紀の絵やデッサンの教科書に至るまで繰り返しおこなわれていて、決して珍しいものではありません。明治時代に来日して日本の伝統美術の賛美者であったフェノロサも、著書の中で同じような方法で日本絵画を説明しています。
ホーガストは、そこに持論である「ねじったS字曲線」の理論を加えたのが、この本のユニークなところです。
画家の立場から具体的な手段として「美とは?」を考える時の参考になる本だと思います。


2018年4月21日土曜日

グリザイユから作品へ

アトリエラポルトでは、グリザイユをデッサンの延長線上としてカリキュラムに取り入れてますが、それを応用して作品にした例を紹介します。

制作はCGの仕事をされているK.yさんで、アトリエラポルトで学ばれて5年のベテランです。

一般的にグリザイユは、白い絵具と黒い絵具を使ってモノクロームで描くことが多いのですが、K.yさは10数種類の絵具を自由に使って、色のない石膏を描きました。板張りの背景で、鮮やかな色はありませんが、明暗をベースにデリケートな色相差を駆使した作品となっています。



始めにキャンバスと同じサイズの画用紙に鉛筆でデッサンしました。

キャンバスにデッサンを転写した後、モノクロームに近い色調で明暗を付けていきます。

徐々に色を加えまます。
今回のような彩度の高い鮮やかな色がない絵では、ボリュームや前後関係に添った寒暖の使い分けと色の響き合いが重要です。


エチュードとしてグリザイユでは、省いてしまうような鎖や木目を描き込むことで、K.yさん独自の絵の表現にしていきました。
















「ダビデの目」 P8号


ルーブル美術館の修復部門のディレクターで、画家でもあったグーリナ(J.G.Goulinat1883~1972)は、「画家のテクニック」という著書の中で、次のように述べています。

「どれだけ多くの人が、コロリストとは、派手な色彩をもって表現する画家だと思い込んでいることか。
ー中略ー
コロリストとは、使用する色調の中から、ヴィヴラッション(振幅)の最大限を、また透明、明るさ、光沢などの最大限を引き出す人である。」

K.yさんの今回の作品は、その文章を思い起こさせます。鮮やかな色はありませんが、寒暖の色の配置と響き合いが的確で豊かです。古典絵画の彩色法の基本に通じる効果になっていると思います。

参考文献:J.G.Goulinat “La technique des peintres" 1922年
             「画家のテクニック」大森啓助訳 美術出版社 1951年



2018年3月20日火曜日

「伊牟田経正作品集」刊行

この度、伊牟田経正先生の画集が刊行されました。
60年代から現在に至る画業が、大作を中心に77点オールカラーで編纂されています。
対象を徹底的に見て描くことによるリアリティの追求、それらの組合せによって生まれる見えないイメージの表出の半世紀にわたる変遷をたどることができます。


「伊牟田経正作品集」
26㎝×24㎝
オールカラー印刷 
日動出版製作
5,000円(別途送料500円)

購入をご希望の方は、下記のメールアドレスに住所・氏名・電話番号・部数を明記の上お申し込み下さい。
imutabook@gmail.com


また、4月12日(木)から15日(日)まで、東京銀座の洋協ホールで、この作品集の中から代表作20数点を展示する「伊牟田経正展」が開かれます。



70年代に写実表現の旗手として画壇に登場して以来、細密描写と斬新な表現で注目を集めてきましたが、その裏にはグザビエ・ド・ラングレの「油彩画の技術」をベースにした深遠な技法研究と実践が秘められています。制作から40年以上も経った作品の堅牢性と、驚くべきマチエールの美しさを見ることができます。日本における乾性油に樹脂を加えた溶剤による “ウエット オン ウエット” 技法の貴重な作品群の展示ともいえるでしょう。


「伊牟田経正作品集」より

60年代後半

70年代



80年代


90年代代


2000年以降




2018年3月5日月曜日

三原色によるエチュード

今回は、初めて油絵具による彩色に挑戦したOさんの制作過程を紹介します。

アトリエラポルトでは、初心者の方には色彩の破綻なく現実空間の再現を学べるように、三原色の混色を基本にした描き方を薦めています。





まずは、キャンバスと同じサイズの画用紙に入念にデッサンします。




出来上がったデッサンをキャンバスに転写して、彩色に移ります。使った絵具は、イエローオーカー・レッドオーカー・コバルトブルーを三原色としてシルバーホワイト・アイボリーブラックで明度と彩度の変化をつけました。

これらの絵具の混色ではモチーフより鈍い色しか出せませんが、その分色の鮮やかさに惑わされずに明度の再現がしやすくなります。彩度の高い色は、実際の明度より明るく感じるため、明暗の置き換えが難しくなります。




このように明度を重視するのは、私たちの空間認識が色よりも圧倒的に明度(Value:英,Valeur:仏)に依存しているためです。リアルな絵を描くには、的確にモチーフの明度を捉えることが最も必要だからです。

明暗関係が決まってきて、色の再現に限界を感じ始めたら、鮮やかな絵具を少しずつ加えていきます。ここでは、カドミウムイエローとカドミウムレッドを足しています。

初心者の油彩画の練習では、細部の描写よりも、モチーフのボリュームや質感、その置かれている空間上の位置関係を正確に表す事の方が大切です。











三原色によるエチュード(F8号)




初めての油彩画で悪戦苦闘されていましたが、デッサンからグリザイユと時間をかけて学ばれてきた成果が表れた作品になりました。

まだまだ明度や彩度の関係など不十分な点が少なからずありますが、次回作の課題として取り組んで頂けたらと思います。





現実空間の再現をベースにした絵は、色と明暗の関係を正しく認識する訓練が必要です。その方法の1つとして、好きな色の絵具を無制限に使って描くのではなく、三原色の最小限度の絵具から始めることは、合理的で分かりやすい学び方だと考えています。