2023年11月22日水曜日

19世紀の肖像画の修復 1

 今回はアトリエラポルトでおこなわれた絵の修復を数回に分けて紹介します。

絵は1850年頃に描かれたと推測できるもので、作者は不明ですが額の裏の書き込みやシールからイギリスで制作されたようです。





額を外して調べてみると、過去の修復によって裏打ちされている上に、切り取られていたことがわかりました。




画面は全体的にニスの経年変化で黄変し、背景にビチュームの使用によると考えられるひび割れがあります。



過去の修復による補筆の痕も見受けられます。



幸い裏打ちはしっかりしていて、現状における絵具層の浮きや剥離はありません。

そこで今回は次の修復作業をおこなうことにしました。
・黄変した古いニスを除去して、新しいニスを塗る。
・欠損箇所と目立つヒビを補筆により目立たなくする。

ニスの除去は、どのような溶剤でおこなうかの選択が最も重要で難しいところです。
4〜5種類の溶剤を弱い順に組み合わせて、ニスの反応をみます。
結果、この絵にはキシレンとジメチルホルムアミドの混合液を使うことにしました。


つづく。


2023年11月6日月曜日

アトリエ・ラポルト 作品展

 11月6日からアトリエ・ラポルトの受講生の作品展を開催しています。
場所は教室と同じビルの1階、ギャラリー・エスパス・ラポルトです。年齢(20代~90代)も、職業も、目的も違う方々が、同じカリュキュラムで学んだ成果を是非ご覧ください。






会期:2023年11月6日~12月1日(8:00~18:00)
会場:ギャラリー・エスパス・ラポルト
    東京都中央区日本橋小伝馬町17-9
    HP: espacelaporte.net
休廊日:土曜・日曜・祝日



2023年10月23日月曜日

西洋美術館に新たに3点のブーグローが!

いま西洋美術館の常設展の中でおこなわれている「もうひとつの19世紀」展に、新たに3点のブーグロー作品が展示されています。いずれも国内のコレクターから貸し出されたもので、その質の高さに驚かされます。




「もうひとつの19世紀」会場


ブーグロー「姉弟」


部分



ブーグロー「純潔」


部分



ブーグロー「ガブリエル・コットの肖像」


以上の3点に以前からある作品を加えると、8点のブーグローの油絵作品を見ることができます。




また、ボナ、コラン、エンネル、カルロス=デュランなどの作品も展示されていて19世紀のアカデミックな絵画に興味ある方には必見です。

ボナ「肖像画」


コラン 「音楽」「詩」



国立西洋美術館 常設展 「もうひとつの19世紀」
会期:2023年9月19日~2024年2月12日(月・休)
    9:30~17:30(金・土曜日は20:00)
料金:一般500円




2023年10月13日金曜日

街角を描く

今回は都会の街角を描いた作品を紹介します。

風景画と言うと名所旧跡や大自然をテーマにした作品を考えがちですが、身近な場所からでも絵にできる例として見て頂けたらと思います。

いわゆる「匿名の風景」を描く場合は、ただ説明的な描写をするのではなく、何に感動したのかを造形的に考えて表現することが大切です。


作者のEさんが現場で描いたスケッチを見ると、強い日差しがつくった光と影のコントラストと形、ビルと道路がつくる垂直・水平の構図に心惹かれたのではないかと感じました。

教室ではスケッチを基にそれを整理してより強調する形で、キャンバスペーパーにエスキースを作って頂きました。大きさはハガキほどで、構成を考えるには小さいサイズで描いた方が細部に拘らずに進めやすいです。

単色で明暗の組み合わせから始めました。


決まった明暗の配置に従って色を置いていきます。影を青系統の色で、光のあたっている所を黄色系統の色で考え、その間をつなぐ色として緑を配置しました。最後にアクセントカラーとして赤を加えました。



エスキースを基にしてF4号のキャンバスに制作しました。
正方形だったエスキースを横長の長方形の構図を改め、黄金比で分割をおこないました。
また遠近法を使って奥行きを加えました。




完成。

街角の風景」 F4号 キャンバスに油彩


造形上の意図と現実の風景を見た時の実感とのバランスが難しい制作でしたが、そこに絵を描く本質的なおもしろさを感じて頂けたら幸いです。


2023年10月2日月曜日

コレクション:1910年頃に描かれたアカデミックな人体デッサン 

 前回に引き続きアトリエ・ラポルトのコレクションから20世紀初頭にパリの美術学校で描かれた人体デッサンを紹介します。



購入時の説明文によると、Ralston Snow Gibbs(1883-1966)というアメリカ生まれの画家がフランスに渡り、パリの美術学校(Ecole des Beaux-Arts,Paris)で学んでいた1907年から1914年の間に描いたデッサンだそうです。左上に美術学校の印が押されています。


前回紹介した人体デッサンからおよそ100年経ち、描き方が変わっているのが分かります。印象派の影響からか、見た目に自然な表現になっています。



画面いっぱいに人物を入れ、木炭を使ってこすったりハッチングしたりしながら描いています。
日本人が盛んにパリに行って絵を学んだ時期と重なり(安井曽太郎や梅原龍三郎など)、その後の日本における美術学校のデッサンの表現に通じるものを感じます。




しかしよく見てみると、基本的な捉え方は前回紹介した1800年頃のデッサンと共通している点が多いことに気づきます。例えば、
・頭、腕、胴体、足が直線や曲線(S字)でつながり、有機的な構造(コンストラクション)を持っている。
・輪郭線をはっきり残して形を表している。(線で形を表す事を前提としている)
・輪郭線の変化が幾何学的な直線と曲線の組み合わせでできている。
・光が右側から来ているのに、各部位のハイライトを描き手の目の方向に置いてモデリングしている。
・解剖学的に正確な骨格や筋肉を描こうとしている。
などです。


「アカデミックなデッサンとは?」の問いの答えをこれらのデッサンに見る思いがします。






2023年9月17日日曜日

コレクション:1800年頃に描かれたアカデミックな人体デッサン

 今回は最近購入したアカデミックな人体デッサンを紹介します。

おそらく1800年代の早い時期にフランスの美術学校かアトリエ(絵画教室としての)で描かれた作品で、当時のデッサンの規範に忠実に従って制作されてものです。


大きさは720mm×560mmで、目の詰まった木炭紙のような紙におそらく合成木炭(今のチャコール鉛筆に近いもの)で描かれています。


ただ見えたとおりに描写したデッサンではなく、当時の新古典主義の思想の影響下にギリシャ・ローマ時代の理想的な人体プロポーションに近づけて描かれています。


また、直角三角形の枠組みの中に、腕・胴体・足といった部位が直線や曲線でつながり、有機的な構造を感じるデッサンです。



美術解剖学的にも驚くほど正確で、複雑な骨や筋肉の形を繊細なハッチングで描き切っています。



19世紀後半の資料によると、当時の美術学校での人体デッサンは1日5時間で1週間が1サイクルだったようです。このデッサンは完成度からみてそれ以上の時間をかけて描いたのではないかとも思いますが、いずれにしろ固定ポーズで長時間かけて描くのが美術学校での人体デッサンの基本でした。クロッキー中心、感情表現重視の日本の人体デッサン教育に疑問を抱かせる1枚です。



2023年9月9日土曜日

三原色で描くエチュード

アトリエラポルトでは着彩の練習方法として三原色で描くことを勧めています。
発色は鈍くなりますが、明暗をベースにした色の扱い方を学ぶのに良い方法です。
 
今回は彩色油絵初挑戦のCさんの作品を紹介します、

使用絵具:
イエローオーカー、レッドオーカー、コバルトブルー、シルバーホワイト、バーントアンバー(黒の代わりと考える)
*仕上げに近ずくにつれ、少量のカドミウムイエローとカドミウムレッドを加えて彩度の落ち込みを補いました。



まずは、キャンバスと同じサイズの画用紙に鉛筆デッサンをしました。



デッサンをキャンバスに転写した後、バーントアンバーで明暗を付けた後、明部をシルバーホワイトで描き起こします。



三原色を自由に混色しながら対象の色を再現していきます。この時、油絵具の特徴とも言える透明(溶き油を多く加える)・不透明(溶き油を加えない)を使い分けると色合いの幅がより広がります。


蝋燭のある静物(F8号)


彩度の低い色調の中でボリュームと奥行きを追求した作品に仕上がりました。明暗の組み合わせなど構成に不慣れな点はありますが、油絵らしいマチエールと質感の表現が初心者と思えないほどです。これから徐々に透明度や色相の違う絵具を増やしていき、より発色の良い絵を目指していくと良いでしょう。