2016年1月22日金曜日

中間色の紙を使った裸婦デッサン

アトリエラポルトの講師による、中間色の紙を使った裸婦デッサンの制作過程を紹介します。すでに何度か画材については説明していますので、今回は特に構造的見方とモデリングについて取り上げたいと思います。(画材について興味ある方は、画面右側のラベルの人体デッサンを開いてみて下さい)

クロッキーの場合はともかく、それなりの時間をかけてデッサンができる時は、最初にモデルさんを良く測って、頭・胴・腰・腕・足などの大きな位置関係を決めること大切です。その際、直線で垂直・水平を基準に取っていくことで画面に対する位置関係を探っていきます。

次に斜線による対象の傾きを引いていきます。
部分的に引くのではなく、延長した線が他の形態のどこに行くのかを見ることが狂いの少ないデッサンを描くコツです。

人体の具体的な形を描き始めたところです。
現実のモデルさんの輪郭を見ると曲線の連続に見えますが、それをそのまま描こうとすると形の甘いデッサンになりがちです。あえて直線で捉えることで、形の変化する位置や線の長短を意識して描くようにしています。

大きな形が決まってきたら、次第に直線の中に曲線(円弧)をはさむように加えていき、人体の柔らかさをだします。

明暗の境を決めて影をおいていきます。

白チョークで明部を描き起こし始めたところです。

目に最も近い所から白チョークを置いていき次第に周囲に広げていきます。

擦筆やセーム革を使って浮いたチョークを馴染ませ、滑らかなモデリングにします。

細部はチャコール鉛筆の白を使っています。













裸婦デッサン (540×370)
ミタント紙にチャコール鉛筆の白と黒、白チョーク

このような中間色の紙に白と黒で描く手法は、短時間で明暗とボリュームが表せるので、西洋では17世紀頃から盛んに行なわれてます。その中でもプリュードン(1758~1823)の人体デッサンは、最も卓越した例と言えるでしょう。アトリエラポルトでは、それらオールドマスターのデッサンを参考に、この手法を人物デッサンを学ばれる方に薦めています。


2016年1月15日金曜日

本の紹介 18  ヨハネス・イッテン著 「色彩の芸術」

今回は、ヨハネス・イッテン著「色彩の芸術」大智浩・手塚又四郎訳 美術出版社を紹介します。原本は1961年にドイツで出版され、日本語訳の初版は1964年で写真のは1974年の改訂版です。

著者のヨハネス・イッテン(1888~1967)は画家であり進歩的な教育者としてその業績は西洋で高く評価されています。特にバウハウスで行なった色彩と造形に関する授業は伝説的で、その後の美術教育に多大な影響を与えました。

「色彩の芸術」は、その中の色に関する部分をまとめたもので、「造形教育の基礎」(手塚又四郎訳 美術出版社)と共に、日本でも美術教育者(特にデザイン系)にとっての「虎の巻」とも言える存在です。


目次を見ると次のようになっています。

・色彩の物理面
・色彩の実感と色彩効果
・色彩の調和
・色彩とデザインの原理
・7種類の色彩対比
・混色
・色立体とカラースケール
・色彩の調和と変化
・形体と色
・色彩の空間効果
・色彩印象の原理
・色彩表現の原理
・コンポジション


内容の一部を紹介しますが、ここで特に注目すべき点はそれぞれの項目の説明に、多くの絵画を例にとって具体的にしているところです。


写真1は、イッテンの色相環ですが、それに基づいて写真2では15世紀のアヴィニヨン派の画家アンゲランの絵を使って色相対比の説明をしています。




3 







写真3は、明度対比の項目で、面積や組み合わせについて説明した後、東洋の水墨画やレンブラントの例を挙げています。


















写真5は寒暖対比で、写真6はセザンヌの静物画を例にして説明しています。




















写真7は、同時対比の説明で、ゴッホの例(写真8)を取り上げています。











以上のような名画による解説が28例もあり、絵を描かれる方にも大変参考になると思います。






ただ残念なことにすでに絶版で、現在手に入るのは要約版の「ヨハネス・イッテン 色彩論」で、これには絵を例にした解説と図版は載っていません。再版が望まれるところです。






2016年1月6日水曜日

フレンチ少女のグリザイユ

アトリエラポルトの近くの建築設計の会社にお勤めのT.eさんは、毎週金曜日の仕事帰りに受講されています。


今回のモチーフは、「フレンチ少女」の胸像です。

筆者はずっとフランス人の少女をモデルにした彫刻のように思っていましたが、最近出版された『石膏像図鑑』(脇本壮二著、堀石膏制作)によると、18世紀~19世紀にかけてアメリカで活躍した彫刻家ダニエル・チェスター・フレンチ作の女性像という意味でこの題名がついたのを知って驚きました。














最初にキャンバスと同じサイズ(P10号)の画用紙に鉛筆デッサンをしました。時間をかけて慎重に進めるT.eさんはここまでに20時間以上かけています。

描きあがったデッサンをトレーシングペーパーでキャンバスに転写します。

このグリザイユで使った絵具は、シルバーホワイト、アイボリーブラック、ランプブラックです。

ほとんどの油絵具は、白を加えると明るくなるとともに色調が冷たく変化します。黒絵具も同様で、この変化の調整に暖かめのアイボリーブラックと冷ためのランプブラック(またはブルーブラック)の2種類の黒を使いました。

油絵を始めて間もないT.eさんには、技法的説明は必要最小限度にして、とにかくモチーフを見て形と明度関係を正確に再現するようにアドバイスしました。










グリザイユ 「フレンチ少女」 P10号



油彩に移ってからも30時間以上かけてじっくりと仕上げました。非常に長い時間がかかりましたが、その分油絵を始めて描いてから2作目とは信じられない完成度だと思います。
多少ぎこちないところもありますが、一生懸命描いた姿が伝わってくるような作品です。

このようにアトリエラポルトでは、制作時間を限定することなく目的に向かって作者が納得するまで描いて頂くことが、絵を学ぶ上で大切なことだと考えています。

2015年12月19日土曜日

キューピットを描く

アトリエラポルトでデッサンを始められてから約2ヶ月、幾何形体→石膏レリーフ→石膏像半面と進んでこられたO.y さんが、いよいよ丸彫りの石膏像に挑まれました。





今回選ばれたのはキューピットの全身像で、石膏デッサンの定番と言えるものです。作者や制作年代は不明のようですが、セザンヌがモチーフにしたことで有名です。









エクス=アン=プロバンスにあるセザンヌのアトリエには、今でもその石膏像が残されています。
頭から左足までの弓なりの曲線的つながりと、前に伸ばした右足から頭にかけての直線的な構造線のコントラストが美しい像です。セザンヌが好んだのも分かるような気がします。

セザンヌ
「キューピットのある静物」
1895年頃




















始めは線だけで描いていきます。
この段階では細部の形に拘らず頭から足までの大きなムーブマンとプロポーションを的確に捉えることが大切です。


全体の形が取れたら、現実の陰影を利用しながら個々の形をモデリングします。






特に初心者の方には頻繁にデッサンと石膏像を並べて置いて、離れた位置から見比べるようにアドバイスをしています。













一見すると可愛らしさだけに目が惹かれるキューピットですが、細部を描き込んみると、驚くほど解剖学的に正確に造形されているのに気がつきます。それをデリケートな明度差のモデリングで表すのがとても難しいところです。















キューピットの石膏像 鉛筆 (530×410)



約15時間で描き上がりました。

アトリエラポルトでの4枚目のデッサンですが、回を重ねるごとに形の捉え方やモデリングが的確になってきています。それと同時に正確な人体の形の把握には、解剖学の知識が必要なことも分かって頂けたかと思います。

「見る事」と「頭で理解する事」との双方からデッサンを学ばれるのが上達への近道です。














2015年11月26日木曜日

テディベアを描く

今回は、デッサンから段階を追って学ばれてきたM,wさんの油絵作品を紹介します。
その前にアトリエラポルトのモチーフについて。

アトリエラポルトでは「見て描く」を基本と考えてますので、どうしても静物画が多くなってしまいます。そこでなるべく絵心を誘うようなモチーフをアンティークショップや雑貨店で探すように勤めています。


最近は質・量ともかなり充実してきたと思いますが、不思議なことに受講生の選ぶモチーフは似通った物になりがちです。

そこで今回のM,wさんはご自身がコレクションされているテディベアをお持ちになりセッティングされました。



まずは、基本に従って単色で明暗を捉えていきました。

この後はダイレクトペインティングの手法で、モチーフの色に合わせて絵具を置いていきます。

多色で描かれた油絵の2作目ですが、すでに他の教室で油絵を習われた経験があるので描き慣れていて手際がいいのに驚かされました。






テェディーベアー F6号



今までのアトリエラポルトの作品にない可愛らしい絵が出来上がりました。作者のモチーフに対する想いが伝わってくるようです。テディベアのボリュームも良く出ていますし、毛の質感の表現も見事です。

ただ配色面では、全体が暖色系統で描かれていて統一感はありますが、寒色系統がほとんどない為に色味が単調な印象を受けます。暖色をより美しく見せるには適度な寒色の助けが必要です。(例えて言えば、お刺身の横にシソの葉やパセリを置くように)
そのような思考が絵を組み立てる段階で出来るようになると、モチーフを超えた魅力が絵に加わると思います。

2015年11月19日木曜日

アトリエの道具と画材 11 自作パレット


前回の「道具と画材」では、腕鎮を取り上げたので今回は自作パレットについて紹介します。

パレットは言うまでもなく画家の必需品です。画家によってパレットの好みはさまざまです。持って描く人、置いて描く人、四角形を好む人、楕円形を好む人・・・・・。
画材屋さんにいけば、大きいのから小さいのまで何種類も置いてあります。しかも意外に高いもので、単版無垢の木製パレッドだと大きいのは1万円を越すものまであります。

そこでアトリエラポルトでは希望者に自作パレットを薦めています。







厚さ3ミリのシナベニヤを好みのサイズに切ります。右は、キャビネットに置いて描くタイプの長方形パレットです。

これは、持って描くタイプの大型のフランゼン型パレットを作っているところです。かっこ良く使いやすいのですが切るのに骨が折れます。

この後サンドペーパーをかけて滑らかに整形します。

形が取れたシナベニヤにリンシードオイルをしみ込ませます。


表と裏に塗れたら、約1週間乾かします。
この後は表面だけでよいのですが、最低3~4回はこの作業を繰り返します。













完成!




















画材入れボックスの上にピッタリ置けるサイズにしてあります。使い始めは絵具の油が吸われる感じがしますが、毎回終わったらきれいに絵具をふき取り、リンシードオイルか残った溶き油を薄く塗っておくと次第に使いやすく美しい光沢のあるパレットになってきます。


2015年11月10日火曜日

色彩的表現を目指して 


すでに公募展に作品を発表され活躍の場を広げているT.kさんが、今アトリエラポルトで取り組まれている課題を紹介します。

T.kさんはシスレーを中心とする印象派の風景画を好まれ、それにより一層の色彩的表現を加えられないか模索しています。

色は感覚的要素が強く作者の趣味や個性が出しやすい半面、客観的に秩序立てて考えるのが難しいものです。

そこで、T.kさんにはシスレーのような再現性を最低限度保つ意味から、遠近法と明暗を使って空間と形を表すことから始めるようにアドバイスしています。


それをベースに虹色(スペクトル)の絵具を使って描くように勧めています。ただしパレット上では反対色(色相環上の反対側にある色)どうしは混ぜないことを原則とします。

かなり制約のある描き方ですが、色彩の調和が得やすく、筆触を付けて厚く不透明に絵具を置くタイプのTさんには合った方法だと考えています。







リアルト橋のレストラン (F6号)



この手法で描き初めてから6~7枚目になりますが、大分描き慣れてきたと思います。

ヴェニスの街並みの色とも合って、彩度の強さが気にならなずに「表現」になってきています。


ただデッサンの構造的な見方が足りないために、下手をすると描き殴った未完成の絵に見えてしまう恐れがあるので要注意です。色彩の魅力に引きつけられて、デッサンが疎かにならないようにしたいところです。やはり絵の基本はデッサンです。