2016年4月4日月曜日

明るい絵を描きたくて

アトリエラポルトに通われて約2年半、マイペースでデッサンから油彩グリザイユへと進まれてきたK.yさんが初めて描いた多色の油絵を紹介します。


多色の油絵と言うと、今までもこのブログで紹介してきたように、果物や花や陶器など色鮮やかなモチーフを選ぶ方が多いのですが、K.yさんはあえて白くて明るいモチーフを白い背景で描くことに挑戦しました。

うまくいくととても斬新で現代的な表現になりますが、僅かな明暗差や色合いの変化で空間やボリュームを表さなければならず、大変難しいセッティングです。

使用絵具
シルバーホワイト、チタニュームホワイト、イエローオーカー、カドミウムイエロー、バリュームイエロー、レッドオーカー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド、クリムソンレーキー、ウルトラマリン、ヴリジャアン、バーントアンバー、ローアンバ、アイボリーブラック、ランプブラック

描き始めは、シルバーホワイトとアイボリーブラックに微量のウルトラマリンを加えて寒暖の調整をしながら明暗を追っていきました。

徐々に色を加えていき、固有色を表します。

ここで忘れてはならないのは、グリザイユの時に学んだ寒暖の扱いを色にも応用することです。

例えば貝のクリーム色のような固有色を塗る場合も、ハイライトに向かって暖かく、影に向かって冷たくなるように色相を微妙に変化させることで、より自然な奥行きやボリュームが出るように心がけます。





このようなハイキーの絵は、輝くような明るさ(白さ)が出ないと魅力的な絵にはなりません。
ところが油絵具のシルバーホワイトは意外に被覆力がなく、何層も塗り重ねないと抵抗感があって輝くような白い発色が得られません。







貝と幾何形体 (M10号)



ゆっくりと焦らずに休みながら約10ヶ月かけて完成しました。

慎重にデッサンの狂いを修正したり、明暗や色合いを調整したりしているうちに、絵具が何層にも重なり、しっかりとしたマチエールと美しい発色の絵になりました。


一見モノクロームの絵のようですが、個々のモチーフの固有色の違いと、光から影への色合いの変化が良く表現されています。(画像では分かりにくいのが残念です)

このような絵は、目を引き付けるようなインパクトはありませんが、部屋に掛けてじっくりと眺めていると、いろいろな色が見えてきて飽きないものです。

とてもユニークな絵ができたと思います。






2016年3月23日水曜日

アポロ像を描く

美大と専門学校で学ばれてきたO.kさんの石膏デッサンを紹介します。遠近法にもとづいた正確な形を捉えることが、あらゆる造形表現の基礎となるとの思いからアトリエラポルトで学ばれています。





アポロ像は大型の石膏胸像で、その大きさと髪や服の繊細なレリーフを表現するのが大変難しい石膏像です。

原作は、紀元前4世紀のギリシャの彫刻家レオカレスのブロンズ作品をローマ時代に大理石に模刻したものです。15世紀にローマ近郊で発見され、18世紀に新古典主義の流れを作ったヴィンケルマンが著書「ギリシア芸術模倣論」の中で、ギリシャ文明の象徴のように称賛しています。現在はヴァティカン美術館のヴェルヴェデーレの中庭に展示されています。








まずは、遠近法の枠を使って、適切な鑑賞距離に視点を固定して形を取っていきました。



ほぼ線で形が取れた段階です。



遠近法の枠を取り外して、影側から描いていきます。


徐々に明部に移っていきますが、背景の紙の白より石膏像が明るく見えるように、影の配置やコントラストの調整を考えながら描き進めます。




布のボリュームを表すには、布の皺の中の光と影の境目を落ちる影よりも暗くする必要が生じます。現実には落ちる影側の方が暗く見えることがよくありますが、そのまま引き写すと二次元の平面ではボリュームが弱く感じる場合があります。
















アポロ像 画用紙に鉛筆 (650×530)




25時間以上かけて仕上がりました。

「存在する形はすべて描く」を基本に、髪の毛や布などの細部まで陰影で曖昧にならないように注意して描いて頂きました。結果的に頭部などの大きなボリューム感が少し弱くなってしまいましたが、個々の形をよく描き切った秀作だと思います。

アトリエラポルトでは、基礎デッサンは現象的な陰影の再現を目指すのではなく、対象の形とボリュームや前後関係を的確に表す技術を学ぶことを目的としています。それは将来の幅広い創作活動(アニメやイラストなども含めた)へとつながるものだと考えているからです。



2016年3月4日金曜日

初めての彩色

基礎デッサンからグリザイユへと段階を追って学ばれてきたK.nさんが、初めて色を使った油絵の制作過程を紹介します。



最初は基本どおり線で形を取っていきました。

一般的に油絵は明暗から始めるように指導される教室が多いと思いますが、アトリエラポルトではデッサンとの繋がりを考え、無骨に見えても形が曖昧にならないように線できっちりと捉えることから始めるようにしています。





次にシルバーホワイトとバーントアンバーだけで明暗を付けていきます。特に初心者の方はモチーフの色を明度で見ることに慣れていないのでこの過程を薦めています。



色は最も明るくて彩度の高いモチーフからつけていきます。

そしてこの明るさを基準にその他の色合いを決めるようにアドバイスしました。この進め方は、絵全体が暗く沈んだようになるのを防ぐのに有効な方法です。


全体に色が置かれた段階です。

この後、全体の明暗関係を調整しながら描き込んでいきました。

















青いピッチャーのある静物 (F6号)





















週1回(2時間半)の受講で約4ヶ月かかって仕上がりました。
時間はかかりましたが、大変完成度の高い作品になりました。初めての彩色した油絵としてはこの位描き込んであると作者の満足感も高いと思います。しっかりとしたマチエールに絵具の発色も大変綺麗です。ただ、個々のモチーフが若干置かれている空間から独立して切り離されているように見えます。コントラストの抑制やモチーフ相互の色の響き合いをいかに作るかが次の作品の課題となるでしょう。


2016年2月24日水曜日

ダイレクトペインティング

今回は典型的なダイレクトペインティングの手法で描いた作品を紹介します。

すでにダイレクトペインティングについては説明した事がありましたが(2013年9月25日のブログ)、要約すると対象の明度と色合いをパレットの上で混色して作り、直接キャンバスにおいていくやり方です。早く描ける半面、的確に明度と色合いが作れないと難しい方法です。


まずはキャンバスと同じサイズの画用紙に鉛筆デッサンをします。

ダイレクトペインティングは、絵具を使ってから形の修正を繰り返すと絵具の発色が悪くなります。しっかりとデッサンをしておく事が肝心です。












デッサンをトレーシングペーパーを使って、キャンバスに転写した状態



モチーフの色をパレットで混色して置いていきます。

この時最も明るい物(ここではインパラの頭骨)から始め、それを基準に他のモチーフの明度を決めていくと良いでしょう。私たちの経験上、影から始めると暗い絵になる方が多いからです。



週1回受講のMaさんは、フレスコ画のようにその日に出来る範囲を決めて描いていき、それを繋げて全体の完成へと向かいました。

















ヴァイオリンとインパラ (F12号)




約30時間で仕上がりました。

明暗法をベースにしながら明るい色鮮やかな絵になったと思います。構図も頭骨やヴァイオリンなど難しい形のモチーフをピラミッド型の構造線の中に収め、大変安定感のあるものになっています。


また、茶色のヴァイオリンの周りに反対色の緑の布、黄緑の葡萄の近くに赤紫の本など色の組み合えせも良く考えられています。







細密描写の絵ではありませんが、それらの造形的な工夫に加え、個々のモチーフの構造がしっかり取れているため描き足りない印象はありません。写真的なリアリティーが好まれる昨今ですが、「絵を描く意味」を考えさせる作品になったと思います。

2016年2月12日金曜日

アトリエの道具と画材 12 : 好みの色の絵具を作る



今回は大作や枚数を描く方にお勧めの方法を紹介します。


自分の絵のスタイルが出来始めると自然に使う色も決まってくるものです。そこでよく使う色を事前に混色してチューブに詰めておくと制作のスピードが飛躍的に高まります。

用意するする物
・空チューブ
・剥離紙(シリコン紙)
・パレットとペインティングナイフ
・自分好みの色作るための絵具







パレットに自分好みの色を混ぜ合わせて作ります。この時、樹脂や油を加えて乾燥速度や艶や粘り具合を自分なりに調整することも可能です。




出来た絵具を剥離紙の上にのせ、チューブの太さよりちょっと小さめに巻きます。












チューブにさし込んで上の方から絞り出していきます。


剥離紙の中の絵具がチューブに移ります。

最後にキャアップを傷めないようにトントンして、絵具を奥まで落とすと同時にチューブの中の空気を抜いていきます。




完成。

間違えのないように、使った絵具名と日付を書いたラベルを貼っておくとよいでしょう。













左から 豚の膀胱、ピストン式チューブ、錫チューブ

終わりにチューブの歴史を一言。

現在のような金属チューブ(昔は錫、現在はアルミが主流)の歴史は意外に浅く、1840年頃から使われ始めました。これにより画家は戸外での制作が出来るようになり、印象派に代表されるように絵画表現の領域が革命的に広がります。また、かつては画家の工房や小さな画材店で手作りしていた絵具が大きな工場で大量生産されるようになり、誰でも手軽に油絵具が手に入るようになりました。表現と画材の関係って面白いですね!


2016年2月3日水曜日

インパラの頭骨標本を描く

今回はちょっと変わったモチーフを描いた作品を紹介します。

作者のK.yさんは、アトリエラポルトでデッサンから順を追って学ばれて2年が過ぎました。そろそろ習作段階は終わって、自己の表現を探すところにきています。

そこで選ばれたのが、動物の頭骨の標本です。

中心となるのがインパラの頭骨(レプイカ)、その他は鹿の頭骨です。




動物の頭骨は、オキーフなどの現代美術の作家が良く取り上げるテーマですが、写実的な絵画技法の中で扱うには、形が不定形で複雑なので難しいモチーフです。

そこでキャンバスと同じサイズ(P10)の画用紙に繰り返しデッサンをして構図を探していきました。
















デッサンが決まったらトレーシングペーパーを使ってキャンバスに転写して、グリザイユで描き始めました。

使用絵具は、カッセルアース(ブロックス)とシルバーホワイト(マツダ)、キャンバスはクレサン社製の中目(66番)で今回は地塗りをせずに直接描いています。














ダイレクトペインティングの手法で、対象の色をパレットで混色して置いていきましたが、絵具の厚い・薄いや透明・不透明を意識して使い分けるようにアドバイスしました









仕上げに近づくにつれて、滑らかで溶け込んだようなモデリングになるように、練り合わせ溶液のスタンドオイルとベネチアンテレピンの濃度を上げ、かなりとろっとした状態の絵具で描くように薦めました。













インパラの頭骨のある静物 (P10号)


油絵具を始めて手にしてから7作目(グリザイユも含む)になりますが、すでに習作を離れてK.yさん自身の作品として十分に鑑賞できるレベルになったと思います。

キャンバスの目に負けない位たっぷりと絵具がのって大変しっかりとしたマチエールになっています。また、白い頭骨の中の微妙な色合いの変化や寒暖の使い分けも的確でとても綺麗です。
















この調子で、より構成や色彩の面を深めていって頂ければと思います。次回の作品も楽しみにしています。