前回、「弱められた遠近法」について書きましたが、今回は「強められた遠近法」の例を紹介します。
右の写真は、ヴェネツィアのサンマルコ広場を教会側から撮ったものです。非常に奥行のある空間に見えます。
この広場を、航空写真で見てみると、その形が長方形ではなく、教会側を広く取った台形なのが分かります。このことから、サンマルコ教会から広場を見ると、遠近が強まり、実際よりも奥行のある広い空間に感じられるのです。
サンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会(ミラノ) |
右の例は、ルネサンス時代の建築家ブラマンテによるものです。
正面から見ると、祭壇の後ろに、広い空間があるように見えます。
ところが、横から見ると、ほとんど奥行きがないのがわかります。
このような例は、イタリアではルネサンスからバロック時代の建造物に数多く見かけられます。
「アナモルフォ―ズ」の著者バルトルシャイティスは、これを「加速された遠近法(Perspective acceleree)」と呼んでいます。
もっと身近な例では、東京ディズニーシーがあります。いたる所に、とても巧みに遠近法の強調がおこなわれ、広い空間感を見る人に与えています。西洋の遠近法の歴史が、現代にも生かされているよい例です。行かれる人は、近づいて山や橋や建物の比率を観察してみると、意外な発見があると思います。
「弱められた遠近法と強められて遠近法」と題して、2回にわたって紹介してみました。
壁画を中心に絵が発達したイタリアでは、置かれる場所や鑑賞位置を考えて、画家は遠近法や構図を決めるのが当たり前におこなわれていました。そもそも遠近法自体がこのような背景から生まれてきたとも言えるのです。このことから、古典絵画にみる遠近法(Perspective centrale)を使った絵画空間とは、現実空間の鑑賞地点からの延長線上にあることが前提となっていました。それに対して、西洋画の歴史の浅い日本では、今日のカメラの進歩も手伝って、鑑賞者や絵を掛ける場所とは無関係な視点から、構図を決めたり、トリミングや広角・望遠レンズで見たような空間を、何の疑問もなく絵に取り入れていることが多いのではないでしょうか?
古典絵画技法を、遠近法から考えてみるのもおもしろいと思います。
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